椅子から立ち上がった瞬間に、急に襲ってくる吐き気に、思わず座り込んだ。

「……お願い、お母さん!お願い……。中絶なんてしたくない。絶対にイヤ……!」

 泣いてすがる私に、お母さんは冷たく「だったら、一人で生きていきなさい」と告げる。

「そんなに産みたいって言うなら、一人で生きていきなさい。 ただし、お母さん手助けはしないから」

 お母さんの冷たい視線に、私は何も言い返すことが出来ない。

「真琴、あなただって考えれば分かるでしょ?お母さんはね、あなたのことが心配だから言ってるのよ。 産みたいと思う気持ちはよく分かる。……だけどね、産んだ後に大変な思いをするのは、あなたなのよ?」

「それはっ……」
 
 確かにそうかもしれない。 私は、人間で桜木は吸血鬼で、大変な思いをすることは間違いないかもしれない。

「あなたがこうして授かった生命は、今あなたのお腹の中で一生懸命生きようとしてる。……でもそれは、あなたの人生を大きく左右するかもしれない、とても重大なことなのよ」

「……重大な、こと?」

「将来的にみたら、子供が可哀想かもしれないでしょ。いじめられたり、バカにされたりするかもしれないわ。……だからこそ、そんな辛い想いをしないために、そうさせないために、お母さんはあなたに子供を諦めてほしいの」

「っ……」

 お母さんの言葉に、涙がたくさん出てしまう。だって、お母さんの言うことは正しい。
 将来的に見れば、子供は可哀想なのかもしれない。 私はそれをお母さんに言われて改めて、思い知った。