偉い……? 私が?

「……偉い?」

「あなたには、きっと産みたいっていう小さな希望があるのよ」

「小さな、希望……?」

「今あなたのお腹にいるのは、間違いなくあなたの子よ。 あなたがしたいと思うように、すればいいの」

 私はお母さんに「……ありがとう、お母さん」と告げた。

「でも……その子の父親には、話したの?妊娠してること」

「……うん、話した」

「その子は、なんて?」

「まだ、分からないって」

「そう……」

 お母さんは、私の背中を優しくさすりながら、そばにいてくれた。
 私にはお父さんがいない。 小さい時、事故で死んでから、お母さんはたった一人私を育ててくれた。
 兄弟もいないから、ずっとお母さんとの二人暮らしだった。
 
 お父さんの顔も覚えていないから、今こうしてお腹にいる赤ちゃんのことを考えると………。
 どの道が一番いいのか、分からなかった。

「お母さん、あのね……」

「ん?どうしたの?」

「このお腹の子の父親は……ちょっと変わった人なの」

 私は桜木のことを話さないといけないと思った。

「ちょっと変わった人……?」

「今私が身ごもっている子供は……人間の子供、じゃないの」

 お母さんはそれを聞いて「え? 人間じゃないって……どういう意味?」と問いかけてくる。

「……この子の父親は、吸血鬼なの。 つまり……ヴァンパイアの、子供」

 こうなったら、全てを話さなくちゃ。 なにを言われても、もう逃げないって決めたから。
 この子のために、逃げてはいけないと思った。ちゃんと、これからの人生(みらい)のことを話そう。