私は気付いたら走り出していた。 行く宛なんて分からないし、思い当たるところもない。
 だけど一生懸命走った。 きっとどこかにいると、そう信じて走り続けた。
 だけど、桜木はどこにもいなかった。

「……桜木、どこにいるのよ……」

 なんでいないの? 何度も電話したけど、やっぱり電話に出ない。
 メッセージも未だに既読になっていない。 

 そういや私、桜木のことなんにも知らないや……。 知っているのは、ほんの一部だけ。
 その他のことなんて、なんにも知らなかった。 

「……まいったな」

 こういう時、桜木なら必ず私を助けてくれるのに、私は何も出来ない。
 自分が無力なのだと、改めて思い知らされてしまった。

「っ……」

 悔しさと情けなさで涙が出る。 既読のつかないままのメッセージを眺めながら、やるせない気持ちを必死で押し殺すしかなかった。

 ベンチに座り込んだまま動くこともできず、無力な自分を恥じた。 悔しさで涙が止まらない。

「桜木……どこ……?」

 ただ行く宛もなく探したところで、見つかる訳もなかった。
 私が吸血鬼だったら……私は桜木のこと、見つけ出せてたのかな?

 私が吸血鬼だったら……今頃ちゃんと、探し出せてたのかな。
 終いには、そんな考えまで浮かんでしまう。

 ……ダメだ。 私にはもう、道がない。もうわからない。
 悔しい……。すごく悔しいんだ。

「桜木……ごめん」

 何も出来ない私を許してーーー。

「会いたい……」

 桜木に会いたいよ……。