でも本当に色々あったけど、今すごく楽しいし、すごく幸せだ。
「桜木、ここクリーム付いてるよ」
「どこ?」
「ここ!」
私は桜木の唇に付いたクリームを取ってあげる。
「悪いな」
「子どもみたいだね」
と言うと、桜木は「うるせえな」と笑っていた。
こんな他愛もない会話も、何気なく楽しい。 これが望んでいた幸せだ。
裕福な生活より、今がいい。
「ごちそうさまでした」
「会計しようか」
「私も払うよ」
と言ったのに「いいよ。俺が誘ったんだし、俺が払う」と言ってくれた。
「じゃあ、割り勘しよう」
「いいって、俺払うし」
「ダーメッ!」
こんなバカみたいな会話も、今では幸せだと思ってしまう。 これも桜木と一緒だからかなと思う。
毎日がこんなだったら、いいのにな……。
「俺んち来る?」
「もちろん」
「んじゃ、行きますか」
手を繋いで歩く道も、今ではあっという間すぎて、着くのが速いと感じる。
「お邪魔します」
「真琴、紅茶とココアどっちにする?」
「んー……紅茶かな」
「はいよ。座って待ってて」
「ありがとう」
ここに来るといつも考える。 この締切にされたままのカーテンをもし開けたら……桜木の世界がどのくらい変わるのだろうかと。
明るい未来が待ってると、そう思ったりもする。
でもこの家は、ずっとカーテンを閉めたままの世界だ。 この世界を……桜木はどう思ってるのだろうか。
「真琴?どうかしたか?」
「え? あ、ううん。なんでもない」



