(どうして……!?)

 なぜ、彼がここに? 戸惑いが突き抜けて思考も身体もフリーズしてしまう。

 まさか学校でのひと幕を経て、牽制にでも来たのだろうか。
 円花(わたし)は自分のものだと、若槻に知らしめるべく。

 そのために尾行でもしてここを突き止めたのだとしても、執着心の強いらしい彼の所業としてはそう驚かない。
 怖い、という気持ちに変わりはないけれど。

(怖いよ……。もしそうなら、何をされるか)

 懐柔(かいじゅう)作戦のために、いずれ話さなければならないことは漠然と考えていた。
 だけど、相(まみ)えるにはまだ、心の準備が全然できていない。

 入れ替わる以前から、もともと彼はわたしのストーカーであり脅威的な存在だった。
 それを踏まえると、ますます抵抗や苦手意識が拭えない。

 このままいないふりをしようか、と揺れる心の隙間に、別の思いが浮かんできた。

(でも、これはチャンスかも)

 若槻やほかの誰かの目と耳を(はばか)ることなく、密かに話を交わすにはまたとない機会。
 彼がどうしてここへ来たのかも気になった。

「大丈夫、だよね」

 いまのわたしは若槻なのだから、迎え入れたところで力の差でどうこう、ということはないはず。
 そう判断したわたしは、心臓が早鐘(はやがね)を打つのを感じながら解錠した。



「お邪魔します」

 脱いだ靴をきちんと揃え、家へ上がった菅原くんは紙袋片手に玄関ホールで会釈した。

「どうぞ……。適当に座って」

 わたしの家じゃないけど、と心の中でつけ足しておく。

「ありがとうございます」

 意外にも律儀で真面目な性格なのか、言葉遣いも所作も丁寧なものだった。
 覚悟していたような刺々しい態度ではない。
 ただ、表情の変化は乏しくて、冷たいというかクールというか、どことなくとっつきにくい感じがする。

 そんな菅原くんがふとクローゼットの方に目をやったのを見て、慌てて閉めておいた。

 リビングのローテーブルの傍らに腰を下ろした彼は、鞄を床に置くと例の紙袋を天板に乗せる。

「……それって、駅前にある人気のお店のだよね。フルーツサンドの」

 ソファーに座りつつ尋ねると「はい」と頷きが返ってくる。

「よかったらどうぞ」

「え」

「先輩に買ってきたやつなんで」

 間が持てなくて何気なく聞いたつもりだったけれど、せびっているように受け取られただろうか。
 焦りながら首を横に振った。

「あ、ううん。お構いなく! ありがたいけどフルーツは食べられないし」

「……何でですか?」

「それは────」