いやぁ……もうなにがなんだか。

初舞台で緊張とか心配とか憧れの部長とのキスシーンとか、みんなの視線とか……。
セリフは少しあるけどほぼ出ずっぱりの主人公の執事役なのだ。

劇の内容はワガママな国の姫が許婚との結婚が嫌で幼馴染の庭師の男と恋仲に落ちたくて研究家に惚れ薬を作ってもらうのだが使い方を間違えてお城の中てんやわんや、というラブコメディ。
これは多摩部長が作った話だ。
彼は役者としても舞台作家としても優れた人だ。

そしてなんやかんやで許嫁の王子役の多摩部長と執事役の僕がキス……練習中も見ていてドキドキしていた。
もちろん実際はキスをしていないけど……キスしてるように見える。
ああああ……。

それに多摩部長の書いた台本を僕が言いやすいようにかなり改変してしまった。
しかもセリフもかなりゆっくり話すから先輩とは違うキャラになったけど
「その方が面白い」
と多摩部長のお墨付きをもらってしまった。

よし、大丈夫……大丈夫……衣装も執事スーツ、オールバックにして白いスプレーをかけて髭をつけた。

部員のみんなが僕の背中を叩いてくれる。でも体は震える。

それにコンタクトも外した。変にピントがズレることないし、観客はぼやけて見えるはず。

……僕は震える体をパンと自分で叩いた。