高校入学、めでたく。
ほっと一安心だった。
後から思えば私立の高校だったしそりゃ入学する生徒が増えれば増えるほど学校はお金が入る。よほどのことがない限り受け入れる、先生が落ちることはないというのはそういうことだったのだ。
例の顔見知りの友達、淳二とはバス通学ともあってさらに仲良くなった。クラスは違うけど。
仲良くなる前に少し体は震えたけどすぐ馴染んだら震えずに話せることができた。
高校に入ってからだが、高校は他の中学からも来てるから初めての人が多く、初対面の際にはやはり緊張で体も声も震える。
それで笑うものもいた。
話し方は意識するようになってからは自分なりに工夫して発生しやすいようにと自分なりの方法が見つかった。
だけどやはり初対面、それどころか親しくなった友達の前でも舌がもつれる。
「たける、なんて言った?」
「〇〇って言ったと思ったわ」
と言われることは度々あったが苦笑いして違うよ、ということしかできなかった。
そんな時、淳二が放課後ついてきてほしいと言ってきた。
「いやさ、俺1人じゃあれだから……たけるとなら行きやすいと思ってさ」
とついて行った先は
「演劇部」
と書かれたドアの前。
「俺、演劇興味あるの。たけるも運動やらないなら一緒にやろうよ」
と無邪気に笑う淳二に僕はハァ、と思った。
ため息つくのもやはり僕は人前に出て何かやるって無理に等しい。淳二も僕が人前が苦手ってわかってるくせに。
でも、淳二は演劇がしたかっただけらしい。
部屋を開けると何十人が狭い部室の中にいる。
高校は男子校だから男しかいないのだがドレスも飾ってある。
「ようこそ、演劇部へ」
と爽やかに微笑む背の高い人は部長だった。いろんな人たちがいるが淳二は
「演劇をしたいです! よろしくお願いします!」
これは演劇をやりたい、を主張するくらいの大きな声。堂々としているなぁ。見ず知らずの人の前で。羨ましいよ。
「その後ろの君は?」
部長に指を刺されてみんなが僕を見る。もちろん僕は震える。体ごと。緊張と視線でさらに震える。高校入学と同時にコンタクトレンズにしたが目の玉も震えてコンタクトのピントが合わなかった。
「……ぼ、ぼくは淳二くんの付き添いで。演劇とかは見るのは好きだけど……演じるのはちょっと……」
ゆっくりだが絞り出すようにいうと部長は
「そうかあ。基本みんなで演劇、小道具大道具衣装やるけど裏方専属も過去には何人かいるからいいよ。一緒にいい演劇を作ろう」
と爽やかにいう。
ああ、絵に描いたような王子様だ。
僕はドキドキと初めて抱いた恋愛感情的なものと緊張が混ざり合ってなおさら震え、部長の綺麗で大きな手を握るのが精一杯だった。
「多摩部長、かっこいいよな」
淳二に帰りのバスで言われて僕はドキッとした。
僕は恋愛対象は女の子だけだ。バスの中で見る他校の女子生徒をみるとドキッとするがそれ以上にドキッとした。
「ん、まぁ……なんか同じ男でもなんか別次元って感じ」
「ファンクラブあるらしいぞ。はいるか?」
「は、入らないよ!」
「だよねーあくまでも先輩として……ねぇ」
その後淳二は熱意を買われて一年の新入部員にも関わらずセリフをもらい、僕は音響を務めることになったがやはり練習中でも緊張で震えていた。