「席埋まってるなー」
相変わらず騒がしい食堂。昼食時には空いている席を探すのも一苦労。キョロキョロと辺りを見渡し涼介と一緒に空席を探す。ちなみに直哉と優希は「この後の講義は自主休講」と宣言してカラオケに行った。
「涼介、相葉くん。よかったらここどうぞ」
喧騒の中でも自然とよく通る女性にしては低い声。だけどどこか優しい印象を抱く。葵先輩の声だと見るまでもなく気づいた。
涼介と違い俺は名字プラス君付けで呼ばれていることに僅かばかりの寂しさを覚える。
振り返ると予想通り葵先輩が友達の菜摘先輩と一緒に座っていた。
菜摘先輩は俺らと同じく読書サークルに所属している。基本大人しいメンバーしかいないサークルでやけに活発な菜摘先輩のことはすぐに覚えた。
体育会系のノリを持つ菜摘先輩が読者サークルに入部した理由は「葵がいるから」だそうだ。
とはいえ菜摘先輩も読書は好き。主に恋愛小説を好んで読んでいる。
「ありがとうございます。葵先輩。伊藤先輩」
涼介が2人に律儀に頭を下げる。涼介はほとんどの先輩を名字で呼ぶ。対して葵先輩だけ名前だ。気になって理由を尋ねたら本人に名前で読んで欲しいと頼まれたそうだ。それから俺らも席に着く。学部もバラバラなメンバーが集まれば自然と話題はサークルのことになる。俺らは最近読んだ本のことを話す。
「私は万葉集を読み直してたよ」
思わず突っ込みたくなることを話すのは葵先輩だ。彼女が1番好きなのは古典。万葉集、古今和歌集、光源氏などをこよなく愛する。
「葵は本当に好きだよね。私は少しだけ苦手かな」
「みたいね。恋愛小説が好きな菜摘なら好きな古典も沢山あると思うのに」
自分が好きな物を否定されているいも関わらずクスクスと控えめに笑っていた。この2人は本当に仲が良い。だからこそ気兼ねなく本音を話せるのだろう。
「だってコイがさー」
眉間にシワを寄せなら嘆く菜摘先輩の発言に違和感を抱く。
「コイ?恋愛のですか」
「そう。敦は聞いたことある?昔は恋ってこう書いたのよ」
菜摘先輩はアイファンのメモ機能を操作して文字を打ち込み俺に見せる。そこには「孤悲」と入力されていた。
「え、まじすか」
「まじまじ。だからかな。昔の恋って一途というか、重いっていうか切ないというか」
「そうなんですか」
孤独と悲しいで孤悲。なんて哀しい言葉なんだ。恋愛って胸が高鳴って幸せになれるものではないのか。驚いている俺に対して隣の涼介は無反応だった。
「やけに反応薄いな」
「僕も葵先輩から初めて聞いた時は驚いたよ。でも恋愛ってそもそもよく分からないし」
どうやら「孤悲」のエピソードを知らなかったのはこの中では俺だけだったらしい。そして彼女どころか好きな人すら出来たことのない涼介の反応はやはり淡白だ。
「私は恋愛物を読むならハッピーエンドがいい。恋って尊いって思わせてほしい」
俺は2、3度首を強く縦に振って肯定。
「俺も同意見です。というより葵先輩からおすすめされた現代万葉集読んでも恋が切ないなんて印象持たなかったので今すごく驚いています」
「私が知っている万葉集の中でも相葉くんが気に入ってくれそうなの選んだから」
葵先輩はいつもさりげなく気を遣ってくれている。自分の好みだけを押し付けたりはしない。そして葵先輩の優しさはとても自然で気をつけなくては見落としてしまう。
「葵って敦には優しいよね。私にはめちゃくちゃ悲しい物語とか平気で勧めるのに」
菜摘先輩の言葉に葵先輩は両手を合わせて謝る。
「ごめんって。菜摘にはどうしても私の好きな物語共有したくて」
謝りながらも軽く舌をだして笑う。ややお茶目で幼い笑顔だった。今まで見たどんな表情よりも可愛く見えた。同時に葵先輩は本当に親しい人にしか見せない顔があることも悟った。
相変わらず騒がしい食堂。昼食時には空いている席を探すのも一苦労。キョロキョロと辺りを見渡し涼介と一緒に空席を探す。ちなみに直哉と優希は「この後の講義は自主休講」と宣言してカラオケに行った。
「涼介、相葉くん。よかったらここどうぞ」
喧騒の中でも自然とよく通る女性にしては低い声。だけどどこか優しい印象を抱く。葵先輩の声だと見るまでもなく気づいた。
涼介と違い俺は名字プラス君付けで呼ばれていることに僅かばかりの寂しさを覚える。
振り返ると予想通り葵先輩が友達の菜摘先輩と一緒に座っていた。
菜摘先輩は俺らと同じく読書サークルに所属している。基本大人しいメンバーしかいないサークルでやけに活発な菜摘先輩のことはすぐに覚えた。
体育会系のノリを持つ菜摘先輩が読者サークルに入部した理由は「葵がいるから」だそうだ。
とはいえ菜摘先輩も読書は好き。主に恋愛小説を好んで読んでいる。
「ありがとうございます。葵先輩。伊藤先輩」
涼介が2人に律儀に頭を下げる。涼介はほとんどの先輩を名字で呼ぶ。対して葵先輩だけ名前だ。気になって理由を尋ねたら本人に名前で読んで欲しいと頼まれたそうだ。それから俺らも席に着く。学部もバラバラなメンバーが集まれば自然と話題はサークルのことになる。俺らは最近読んだ本のことを話す。
「私は万葉集を読み直してたよ」
思わず突っ込みたくなることを話すのは葵先輩だ。彼女が1番好きなのは古典。万葉集、古今和歌集、光源氏などをこよなく愛する。
「葵は本当に好きだよね。私は少しだけ苦手かな」
「みたいね。恋愛小説が好きな菜摘なら好きな古典も沢山あると思うのに」
自分が好きな物を否定されているいも関わらずクスクスと控えめに笑っていた。この2人は本当に仲が良い。だからこそ気兼ねなく本音を話せるのだろう。
「だってコイがさー」
眉間にシワを寄せなら嘆く菜摘先輩の発言に違和感を抱く。
「コイ?恋愛のですか」
「そう。敦は聞いたことある?昔は恋ってこう書いたのよ」
菜摘先輩はアイファンのメモ機能を操作して文字を打ち込み俺に見せる。そこには「孤悲」と入力されていた。
「え、まじすか」
「まじまじ。だからかな。昔の恋って一途というか、重いっていうか切ないというか」
「そうなんですか」
孤独と悲しいで孤悲。なんて哀しい言葉なんだ。恋愛って胸が高鳴って幸せになれるものではないのか。驚いている俺に対して隣の涼介は無反応だった。
「やけに反応薄いな」
「僕も葵先輩から初めて聞いた時は驚いたよ。でも恋愛ってそもそもよく分からないし」
どうやら「孤悲」のエピソードを知らなかったのはこの中では俺だけだったらしい。そして彼女どころか好きな人すら出来たことのない涼介の反応はやはり淡白だ。
「私は恋愛物を読むならハッピーエンドがいい。恋って尊いって思わせてほしい」
俺は2、3度首を強く縦に振って肯定。
「俺も同意見です。というより葵先輩からおすすめされた現代万葉集読んでも恋が切ないなんて印象持たなかったので今すごく驚いています」
「私が知っている万葉集の中でも相葉くんが気に入ってくれそうなの選んだから」
葵先輩はいつもさりげなく気を遣ってくれている。自分の好みだけを押し付けたりはしない。そして葵先輩の優しさはとても自然で気をつけなくては見落としてしまう。
「葵って敦には優しいよね。私にはめちゃくちゃ悲しい物語とか平気で勧めるのに」
菜摘先輩の言葉に葵先輩は両手を合わせて謝る。
「ごめんって。菜摘にはどうしても私の好きな物語共有したくて」
謝りながらも軽く舌をだして笑う。ややお茶目で幼い笑顔だった。今まで見たどんな表情よりも可愛く見えた。同時に葵先輩は本当に親しい人にしか見せない顔があることも悟った。