夏祭りを4人で行かないと提案してきたのは菜摘先輩だった。
目的は2つ。
1つは涼介に俺らが仲良しカップルだと信じさせるため。
2つ目はこの祭りで2人をくっつけること。
なお菜摘先輩はすでに葵先輩と話をつけているらしい。結果、俺らは今日途中で逸れる。そして2人きりになった間に葵先輩は涼介に告白する。
祭り当日、菜摘先輩と葵先輩は浴衣で来ていた。葵先輩の浴衣姿はとんでもなく可愛い。そんなことを思って俺はもう諦めるんだと自分を諌める。
「行こう」
菜摘先輩が自然な感じで俺の横に来て、手を繋ぐ。そして2人を置き去りにして歩き出す。チラッと後ろを見れば涼介と葵先輩は困ったように顔を見合わせてついてきた。
取り敢えず何か食べようって話になってたこ焼きを買う。涼介はソースを口元につけて葵先輩に笑われていた。
「ついてるよ」と優しく拭ってあげる仕草に俺の胸が痛む。
「ねぇねぇ、かき氷もあるよ」
菜摘先輩が俺を引っ張る。自然と葵先輩から視線を外すことになる。
「どんだけ食べるんですか」
そう笑いながらこの人の存在に助けられていることを自覚していく。
「葵たちも食べる」
少し距離が出来た2人に向かって叫べば頷かれる。
その後も沢山の物を買った。りんご飴、綿菓子、絵描きせんべい。射的もして、くじを引き楽しい時間を過ごす。
「花火もうすぐだね」
「そうだね」
「じゃあさ、葵たち場所取っておいてよ。私達は代わりになんか買ってくるから」
「まだ食べるんですか」
「いいじゃん」
そんなやり取りを交わしながら別行動を取る。このまま俺らは合流することはない。
「あの2人うまくいきますかね」
「まぁ大丈夫なんじゃない。どう見ても両思いなんだし。それよりせっかくだから花火見ていく」
「そうですね」
2人で適当な場所を探しす。それから花火を眺める。何千発も続けて打ち上げられる色鮮やかな花火は美しく華やかだ。けれどあっという間に終わってしまうと一抹の虚しさを感じる。
「見て、葵からのライン」
覗き込むと涼介と付き合えることになった送られていた。
良かったと心の底から思う。それと同時に俺は失恋したんだなって実感が湧いてくる。
「菜摘先輩。ありがとうございます。俺と付き合うふりしてくれて」
こんな馬鹿げた演技でもしなければ涼介は告白をオーケイしなかっただろう。
「いいよ。だって私の為にしたことだし」
「菜摘先輩の為」
言葉の意図が分からず首を傾げる。これが俺のためじゃなくて葵先輩のためとか言われたならすんなり納得したのだが。
「だって、私敦のこと好きだから」
「へ」
突然の告白に思わず大きな声が出てしまう。周囲の人が俺らの方をジロジロと見てくる。
「ねぇ、私達このまま付き合い続ける」
「いや、それは」
「でもさ」
一旦言葉を切った先輩は小悪魔のような笑みを浮かべていた。
「葵と涼介君が付き合った瞬間に別れるってやばくない。涼介君疑問に思わないかな」
菜摘先輩の最もな指摘に口ごもる。けれどたとえ相手を傷つけると分かっていてもこれは伝えておこうと思った。
「俺は葵先輩が好きだった気持ちを忘れていません」
始まってすらいない恋だった。それでも本当に好きな人だった。諦めたくなんてなかった。
「このまま付き合っているフリをしても菜摘先輩を好きになれるか分からないです」
なんて傲慢で上から目線の意見だろう。
それでも自分の気持ちは伝えなくてはいけない。今、失恋によって泣きたくなるほど苦しい思いをしているからこそ誰かを気持ちを弄ぶようなことはしたくない。
「分かってるよ。君がずっと葵を見てきたように私は敦を見てきた。だからちゃんと分かってる」
好きだからこそ分かってしまうことがある。その気持ちは痛いほど理解できた。
「でもね、たとえフリだとしても私は今日凄く楽しかった」
「それは」
俺もです。そう言おうと思って辞めた。嘘ではなかった。本当は今日憂鬱だった。葵先輩が涼介に優しく接する度に息苦しかった。それでも思ったより楽しめた菜摘先輩のおかげだ。食い意地を張る先輩を見ていると自然と頬が緩んだ。
でも伝えることで変に期待を持たせてしまうのが怖い。
「夏休みの間だけ付き合うよ。それで新学期が始まってもまだ君が葵のこと忘れられないならその時は諦めるよ」
この提案を数分だけ吟味する。
「分かりました」
そう了承したのは菜摘先輩と一緒にいれば失恋の痛みを吹き飛ばしてくれると分かっていたからかもしれない。
帰り駅まで先輩を送りその後1人でマンションまで歩いた。
何故かわからないけど寄り道しようって気分になりあの河川敷に向かう。
俺が葵先輩を諦めるきっかけになった場所。
駅から10分ほど歩くと着いた。静かに目を閉じる。あの時の光景が脳内に鮮明に浮かび上がる——訳ではなかった。
思い浮かぶのは菜摘先輩が口一杯にたこ焼きを頬張る姿だった。
「どんだけ食いしん坊なんですか」
思わず笑いながら1人呟く。つい数日前に失恋したとは思えないほど清々しい気分だった。
目的は2つ。
1つは涼介に俺らが仲良しカップルだと信じさせるため。
2つ目はこの祭りで2人をくっつけること。
なお菜摘先輩はすでに葵先輩と話をつけているらしい。結果、俺らは今日途中で逸れる。そして2人きりになった間に葵先輩は涼介に告白する。
祭り当日、菜摘先輩と葵先輩は浴衣で来ていた。葵先輩の浴衣姿はとんでもなく可愛い。そんなことを思って俺はもう諦めるんだと自分を諌める。
「行こう」
菜摘先輩が自然な感じで俺の横に来て、手を繋ぐ。そして2人を置き去りにして歩き出す。チラッと後ろを見れば涼介と葵先輩は困ったように顔を見合わせてついてきた。
取り敢えず何か食べようって話になってたこ焼きを買う。涼介はソースを口元につけて葵先輩に笑われていた。
「ついてるよ」と優しく拭ってあげる仕草に俺の胸が痛む。
「ねぇねぇ、かき氷もあるよ」
菜摘先輩が俺を引っ張る。自然と葵先輩から視線を外すことになる。
「どんだけ食べるんですか」
そう笑いながらこの人の存在に助けられていることを自覚していく。
「葵たちも食べる」
少し距離が出来た2人に向かって叫べば頷かれる。
その後も沢山の物を買った。りんご飴、綿菓子、絵描きせんべい。射的もして、くじを引き楽しい時間を過ごす。
「花火もうすぐだね」
「そうだね」
「じゃあさ、葵たち場所取っておいてよ。私達は代わりになんか買ってくるから」
「まだ食べるんですか」
「いいじゃん」
そんなやり取りを交わしながら別行動を取る。このまま俺らは合流することはない。
「あの2人うまくいきますかね」
「まぁ大丈夫なんじゃない。どう見ても両思いなんだし。それよりせっかくだから花火見ていく」
「そうですね」
2人で適当な場所を探しす。それから花火を眺める。何千発も続けて打ち上げられる色鮮やかな花火は美しく華やかだ。けれどあっという間に終わってしまうと一抹の虚しさを感じる。
「見て、葵からのライン」
覗き込むと涼介と付き合えることになった送られていた。
良かったと心の底から思う。それと同時に俺は失恋したんだなって実感が湧いてくる。
「菜摘先輩。ありがとうございます。俺と付き合うふりしてくれて」
こんな馬鹿げた演技でもしなければ涼介は告白をオーケイしなかっただろう。
「いいよ。だって私の為にしたことだし」
「菜摘先輩の為」
言葉の意図が分からず首を傾げる。これが俺のためじゃなくて葵先輩のためとか言われたならすんなり納得したのだが。
「だって、私敦のこと好きだから」
「へ」
突然の告白に思わず大きな声が出てしまう。周囲の人が俺らの方をジロジロと見てくる。
「ねぇ、私達このまま付き合い続ける」
「いや、それは」
「でもさ」
一旦言葉を切った先輩は小悪魔のような笑みを浮かべていた。
「葵と涼介君が付き合った瞬間に別れるってやばくない。涼介君疑問に思わないかな」
菜摘先輩の最もな指摘に口ごもる。けれどたとえ相手を傷つけると分かっていてもこれは伝えておこうと思った。
「俺は葵先輩が好きだった気持ちを忘れていません」
始まってすらいない恋だった。それでも本当に好きな人だった。諦めたくなんてなかった。
「このまま付き合っているフリをしても菜摘先輩を好きになれるか分からないです」
なんて傲慢で上から目線の意見だろう。
それでも自分の気持ちは伝えなくてはいけない。今、失恋によって泣きたくなるほど苦しい思いをしているからこそ誰かを気持ちを弄ぶようなことはしたくない。
「分かってるよ。君がずっと葵を見てきたように私は敦を見てきた。だからちゃんと分かってる」
好きだからこそ分かってしまうことがある。その気持ちは痛いほど理解できた。
「でもね、たとえフリだとしても私は今日凄く楽しかった」
「それは」
俺もです。そう言おうと思って辞めた。嘘ではなかった。本当は今日憂鬱だった。葵先輩が涼介に優しく接する度に息苦しかった。それでも思ったより楽しめた菜摘先輩のおかげだ。食い意地を張る先輩を見ていると自然と頬が緩んだ。
でも伝えることで変に期待を持たせてしまうのが怖い。
「夏休みの間だけ付き合うよ。それで新学期が始まってもまだ君が葵のこと忘れられないならその時は諦めるよ」
この提案を数分だけ吟味する。
「分かりました」
そう了承したのは菜摘先輩と一緒にいれば失恋の痛みを吹き飛ばしてくれると分かっていたからかもしれない。
帰り駅まで先輩を送りその後1人でマンションまで歩いた。
何故かわからないけど寄り道しようって気分になりあの河川敷に向かう。
俺が葵先輩を諦めるきっかけになった場所。
駅から10分ほど歩くと着いた。静かに目を閉じる。あの時の光景が脳内に鮮明に浮かび上がる——訳ではなかった。
思い浮かぶのは菜摘先輩が口一杯にたこ焼きを頬張る姿だった。
「どんだけ食いしん坊なんですか」
思わず笑いながら1人呟く。つい数日前に失恋したとは思えないほど清々しい気分だった。