「ミクミク、あれ見て。猫のカタチした雲。猫可愛くて好き」

「はぁ」

「あ、そこの木にキノコ生えてる。変な色してるから食べたら笑いが止まらなくなるやつだ。毒キノコはやだけど、しいたけは好きだなぁ」

「へぇ」


適当に返事を打っても「もー」と楽しそうに笑うだけなので気が楽だ。あと雲は猫の形には見えないし、生えてるのはキノコじゃなくて変な形の葉っぱだ。
ハルカの頭って結構ファンタジーだと思う。

なんて考えていると急に荷台が静かになった。


「ちょ、寝てないよね……!?」


慌ててそう確認すると「んー」とくぐもった声が帰ってくる。

ハルカは本当によく寝る。

一度背中合わせで二人乗りをしている時に、舟を漕いだハルカが前のめりになって荷台から落ちたことがあった。顔面が鼻血まみれになってその時は流石に焦った。

とにかくハルカは公園の芝生でもベンチでもどこでも寝る。マイペースという言葉はハルカのために作られた単語だと思った。

ため息がてらスゥっと深く息を吸う。

……やっぱり息がしやすい。

理由はわからないけれど、ハルカを拾って自転車を漕ぐ時間は唯一ちゃんと息ができているような気がした。

お互いに踏み込まず一定の距離を保ったまま進むこの自転車が、まぁ嫌いではなかった。