時は一限目中、二名の男子生徒は堂々とサボリながらも保健室で悩みを抱えていた。
「さて、俺の中ではひーくんはしっかりと例の件にしっかり吹っ切れたと思っているわけだが」
「タカくんが身勝手にも秘密をバラした話ね」
「うぐっ……間違っては、いらっしゃらないが言い方に少々棘があるように感じますな⁉」
くすり、と雲雀が笑う。先程の仕返しだと言わんばかりに。
「事実でしょ? ……気持ちの整理がついたかって聞かれると簡単に頷けないけど。このままじゃいけないのかなというのは、何となく」
「うんうん」
「世間で同性同士の恋愛が認められつつあるものの、やっぱり周囲にそれを明かすのは抵抗があるよ……まあ、そこはもう弁解の余地は今更かもしれないけど」
「ん、そうね」
左手を自身の肩に置き、気まずそうに鷹千代が頷く。
雲雀と鷹千代が幼馴染ながら恋人であることは二人の親も知らない。
隠したい秘め事として封印するが如く、二人は敢えて実家から遠出の学校を選択して各自一人暮らしという名目で学園生活を謳歌している。その中で突然と崩壊を遂げた現実に彼は胸の内を語った。
「高校入学してから半年経って。最近、タカくんからのウザ絡みも増えて、ちょっと……いや、結構? ウザいなって思ってたけど」
「あれぇ? これでも一応、学校内で出来る最大限の愛情表現のつもりでしたが……?」
「なら、凄く下手くそだよ。もっと普通にしてくれれば……ううん、違う。僕が、そうさせてあげられなかった」
白シャツの胸元を自身の右手で掴み、苦い表情を浮かべる。
「………………そう思った、心は?」
「上手く、言えないけど……秘密を隠すのにとにかく必死で。バレたら、まずいって。友達といて楽しそうなキミの迷惑にはなりたくないって思って」
「迷惑、ね」
「だから――! 嘘を……鬱屈な感情を隠した。ずっと、もやもやとした感覚があったのに」
「なるほど」
鷹千代は相槌がてら首を縦に振り、瞳を隠す。そして、開眼と同時に簡単な願い事を放った。
「ねえ、雲雀。その可愛い前髪を少しの間だけ上げてくれない?」
「え、何……?」
「まあまあ、世界一格好良い幼馴染のお願いを聞くと思って。ほら、一生のお願い」
手を合わせて、片目を閉じてウインクをする。
まるで子供のような言い分に雲雀は呆れつつも、少し考えた末に口を開けた。
「それ、昔から何度も使った気がするけど……わかった。はい、これでいい?」
「うん、さすがは我が宇宙一の恋人! ナイス前髪!」
「何それ、あと無駄に規模がでか――痛っ⁉」
それは前触れもなく、雲雀の額に衝撃が走った。鷹千代の容赦ないデコピンによって。
「え……ちょ! 急に、何事⁉」
じりじりと痛みが司る。泣き顔になりつつある雲雀に対して、鷹千代は悪戯な笑みを浮かべた。
「ひーくんのバーカ!」
「は、はっ⁉」
「そういう大事なこと、もっと最初から俺に相談つか、話しなよ。あと、さっきもだけど迷惑って単語は要らない」
「……っ」
額を抑え、下唇を雲雀は噛み締める。
「俺が欲しいのはありがとうっていう感謝と! ひーくんの、ひーくんによる、ひーくんが俺に向けてくれるクソデカ感情だけでいーの! おっけー?」
雑に問う。至って真面目に、心からの想いを。
雲雀は思考の果て、泣きそうになりながらも、ふわりと微笑した。
「……何、それ。僕の負担、大きいじゃん」
「当然。これまでの罪、償って貰わないと俺の愛が相殺出来ませんからねぇ。何だったら、みんなの前で公開キスしちゃう?」
「それは遠慮する」
即答。
嫌というわけではないが、ハードルの高い要求に雲雀はガチトーンで対応する。
「けど、自分と……タカくんにはもう嘘吐きたくない。……怖い、凄く怖いけど」
「大丈夫。少なくとも今のクラス、めっちゃいいやつばかりだから。それに何かあっても、絶対、雲雀のこと俺が守る」
「……っ! ……ずるい、ずるいよ」
「ええ……今のは惚れ直すところでは?」
鷹千代はわかりやすくも肩を落とす。しかし、雲雀は俯きながらも首を軽く横に振るった。
「それは、ちょっと無理な相談かも。……もう、惚れてるし」
「あ……あはは。……その発言は、破壊力つよ」
互いに語彙力の欠如と頬を赤く染めて、改めて顔を見ては鷹千代が景気付けに手を一回叩く。
「さて、んじゃ覚悟は決まったと見てもよい?」
「ん、よい。あ、でも少し待って」
鷹千代の裾を僅かに引き、彼は幼馴染を覗くと雲雀は小声ながらも宣言する。
「僕から言わせて。ちゃんと自身にもケジメを付けさせるために」
「おう、任せた!」
歯を見せ、口角が自然と上がる。
過呼吸の直後なので無理をしないで、と穏やかな声を掛けつつも二人は保健室を後にした。
「さて、俺の中ではひーくんはしっかりと例の件にしっかり吹っ切れたと思っているわけだが」
「タカくんが身勝手にも秘密をバラした話ね」
「うぐっ……間違っては、いらっしゃらないが言い方に少々棘があるように感じますな⁉」
くすり、と雲雀が笑う。先程の仕返しだと言わんばかりに。
「事実でしょ? ……気持ちの整理がついたかって聞かれると簡単に頷けないけど。このままじゃいけないのかなというのは、何となく」
「うんうん」
「世間で同性同士の恋愛が認められつつあるものの、やっぱり周囲にそれを明かすのは抵抗があるよ……まあ、そこはもう弁解の余地は今更かもしれないけど」
「ん、そうね」
左手を自身の肩に置き、気まずそうに鷹千代が頷く。
雲雀と鷹千代が幼馴染ながら恋人であることは二人の親も知らない。
隠したい秘め事として封印するが如く、二人は敢えて実家から遠出の学校を選択して各自一人暮らしという名目で学園生活を謳歌している。その中で突然と崩壊を遂げた現実に彼は胸の内を語った。
「高校入学してから半年経って。最近、タカくんからのウザ絡みも増えて、ちょっと……いや、結構? ウザいなって思ってたけど」
「あれぇ? これでも一応、学校内で出来る最大限の愛情表現のつもりでしたが……?」
「なら、凄く下手くそだよ。もっと普通にしてくれれば……ううん、違う。僕が、そうさせてあげられなかった」
白シャツの胸元を自身の右手で掴み、苦い表情を浮かべる。
「………………そう思った、心は?」
「上手く、言えないけど……秘密を隠すのにとにかく必死で。バレたら、まずいって。友達といて楽しそうなキミの迷惑にはなりたくないって思って」
「迷惑、ね」
「だから――! 嘘を……鬱屈な感情を隠した。ずっと、もやもやとした感覚があったのに」
「なるほど」
鷹千代は相槌がてら首を縦に振り、瞳を隠す。そして、開眼と同時に簡単な願い事を放った。
「ねえ、雲雀。その可愛い前髪を少しの間だけ上げてくれない?」
「え、何……?」
「まあまあ、世界一格好良い幼馴染のお願いを聞くと思って。ほら、一生のお願い」
手を合わせて、片目を閉じてウインクをする。
まるで子供のような言い分に雲雀は呆れつつも、少し考えた末に口を開けた。
「それ、昔から何度も使った気がするけど……わかった。はい、これでいい?」
「うん、さすがは我が宇宙一の恋人! ナイス前髪!」
「何それ、あと無駄に規模がでか――痛っ⁉」
それは前触れもなく、雲雀の額に衝撃が走った。鷹千代の容赦ないデコピンによって。
「え……ちょ! 急に、何事⁉」
じりじりと痛みが司る。泣き顔になりつつある雲雀に対して、鷹千代は悪戯な笑みを浮かべた。
「ひーくんのバーカ!」
「は、はっ⁉」
「そういう大事なこと、もっと最初から俺に相談つか、話しなよ。あと、さっきもだけど迷惑って単語は要らない」
「……っ」
額を抑え、下唇を雲雀は噛み締める。
「俺が欲しいのはありがとうっていう感謝と! ひーくんの、ひーくんによる、ひーくんが俺に向けてくれるクソデカ感情だけでいーの! おっけー?」
雑に問う。至って真面目に、心からの想いを。
雲雀は思考の果て、泣きそうになりながらも、ふわりと微笑した。
「……何、それ。僕の負担、大きいじゃん」
「当然。これまでの罪、償って貰わないと俺の愛が相殺出来ませんからねぇ。何だったら、みんなの前で公開キスしちゃう?」
「それは遠慮する」
即答。
嫌というわけではないが、ハードルの高い要求に雲雀はガチトーンで対応する。
「けど、自分と……タカくんにはもう嘘吐きたくない。……怖い、凄く怖いけど」
「大丈夫。少なくとも今のクラス、めっちゃいいやつばかりだから。それに何かあっても、絶対、雲雀のこと俺が守る」
「……っ! ……ずるい、ずるいよ」
「ええ……今のは惚れ直すところでは?」
鷹千代はわかりやすくも肩を落とす。しかし、雲雀は俯きながらも首を軽く横に振るった。
「それは、ちょっと無理な相談かも。……もう、惚れてるし」
「あ……あはは。……その発言は、破壊力つよ」
互いに語彙力の欠如と頬を赤く染めて、改めて顔を見ては鷹千代が景気付けに手を一回叩く。
「さて、んじゃ覚悟は決まったと見てもよい?」
「ん、よい。あ、でも少し待って」
鷹千代の裾を僅かに引き、彼は幼馴染を覗くと雲雀は小声ながらも宣言する。
「僕から言わせて。ちゃんと自身にもケジメを付けさせるために」
「おう、任せた!」
歯を見せ、口角が自然と上がる。
過呼吸の直後なので無理をしないで、と穏やかな声を掛けつつも二人は保健室を後にした。