日曜日。

朝8時に駅に集合って事で私は少し早めの7時45分に駅前に到着した。

「日菜ーー!」

少し離れたコンビニから莉愛と蒼耶が仲良く歩いてくる。

「おはよー」

「日菜、めっちゃくちゃ可愛い」

昨日、考えに考えて目の荒い白のサマーニットにデニムのショートパンツを合わせてきた。
そう言う莉愛もフワフワした女の子らしいファッションで蒼耶の腕にしがみついている。

「みんなはやーい」

その後すぐに舞も到着して、合流した。
舞は相変わらずサラッサラの髪をなびかせて、大人っぽいファッションをしている。

「湯川先輩はまだ?」

莉愛が、そう言うと蒼耶が

「湯川先輩ちょっと緊張するなー」

そう言ってかぶっていた黒いキャップを被り直した。

「何で緊張するの?」

莉愛が不思議そうに蒼耶を見上げる。

「結構気分屋だからさ。プライド高いし」

蒼耶はそう言って、私の顔を見ると「しまった」と言う顔をして目を逸らした。

「ご、ごめん。あ、でも女子には優しいからさ」

慌てて弁解する蒼耶に

「ううん、全然大丈夫」

と答えて私は笑ってみせる。
蒼耶の言うとおりだもんな、と心の中で苦笑する。

「あ、湯川先輩来た来た!」

蒼耶が私が背を向けている方向を指差して、全員がそちらをむいた時だった。

「あれ?」

蒼耶がボソッとつぶやく。

かなり離れた所から、ゆったり目のTシャツに黒の細身のパンツで歩いてくる陸は長身もあってか、モデルのようだった。
でも、私は陸ではなくその後ろから少しめんどくさそうに歩いてくる人物をとらえて、言葉を失っていた。

「あれ瑛人じゃん?」

蒼耶がそう言うより先に、私はなぜか1歩後ろに下がってしまっていた。確かに陸の後ろから歩いてきている人物には瑛人だったから。

「え、今日声かけるって言ってたの、石崎くんだったの?どう言う繋がり?」

私の横で舞が驚いた声を出している。

なんで?

なんで瑛人なの?

わたしの頭は混乱していた。
2人が知り合いって事はわかったけど、こんなプライベートで一瞬に遊ぶほど仲がいいの?全然そんな感じに見えなかったけど、、。

困惑してる私達の前に、2人はだんだん近づいてきて陸が「みんな早いなー、おはよー」と笑顔で声をかけた。

「え、石崎くんだよね」

一番に声をかけたのは莉愛。

「そー、知ってるよな、同級生やし」

陸が瑛人の肩をポンと叩く。

「中2の時1度だけ一緒のクラスだっけ?」

舞がそう言って思い返すみたいに首を傾げる。

そうやってみんなが話してる間も瑛人は特に一言も喋らず、陸の後ろに立っていた。
そして、私もなぜか瑛人の方をまじまじと見る事ができずに、陸の足元を見ていた。

「ま、今日はいっぱい楽しも!」

陸がそう言うと、みんなが口々に返事をして歩き出した。

「ね。私あんまり石崎くんと話した事ないんだけどさ、どんな感じなんだろ」

男子3人が先を歩く後ろで、舞が小声で話しかけてくる。

「私もあんまり話した事ないな、、あ、そう言えばこの間日菜、石崎くんと話してなかった?仲良いの?」

莉愛が思い出したように私の肩をつついた。

「いやっ、、仲良いって言うか、、最近ちょっと話し出したかなってくらいで、、」

あの例のノートのことがなければ、私だって瑛人の事はよく知らなかったと思う。て言うか、今だってそんなに瑛人の事知ってるわけじゃない。バスケ部だった事も、陸とこんな風に一緒に行動するなんて事も知らなかったのだから。

「でもさ、今日私は石崎くんと行動する感じだよねぇ、うまく話せるかな。さっきから全然喋らないじゃん?」

舞が不安そうにそう言って困った顔をして見せた。

「みんなで一緒に行動しよ?」

私は舞の腰に手を回した。
私も陸と2人になるより、みんなでいたかった。

遊園地がある場所までは、電車で30分弱。
私たちは電車の座席に1列に並んで座り、なんとなくおしゃべりをしていた。
学校の嫌いな先生の話題だったり、ドラマの話だったり、普通の雑談だったけど会話は途切れる事もなく私たちはずっと笑って話していた。
陸も時折冗談を言ってふざけたりもして、笑いながら私は舞や莉愛とこんな風にはしゃぐの久しぶりだなと、心地良くもあった。
ただ、瑛人はそうじゃなかったと思う。
私と瑛人は端と端で直接会話をする事もなかったけれど、終始瑛人は相槌を打つ程度であまり会話にも参加してないような気がした。
私から見たら明らかに楽しそうじゃないし、迷惑そうにさえ見えた。

「さー!着いたぞー!何から行くー?」

遊園地に入るや否や陸はテンション高めに私の手をとった。
莉愛もすでに、蒼耶の腕にくっついていて、それを察してか瑛人は付かず離れずの距離で舞の側に立っていた。

「石崎くん!余り物同士、今日はよろしく!」

舞が意を決したように、笑顔で瑛人にそう言って笑ってみせると、瑛人は少し笑って頷いて見せた。

「じゃ、やっぱりあれからかー?」

陸が指差したのは、リニューアルして新しくなったらしいジェットコースターだった。

「え、いや、、」

絶叫系は大の苦手だ。
莉愛と舞はテンション高めに喜んでいる。
拒否する空気じゃないのは分かっている。
だけど、、

「みんなもちろん行くだろ?」

陸が私の手をギュッと握ったままみんなに聞くと、全員が「イェーイ」と高々と拳を挙げて見せた。
私は陸に繋がれた手を高々と挙げられて、強制的に賛同させられた感じだった。

ジェットコースターは長蛇の列ができていて、乗るまでにはしばらくかかりそうだった。
コースターから聞こえてくる歓声のような、悲鳴のような声と、レールを走るガタガタと言う音がやけに大きく聞こえて、私の心臓はだんだんと早くなってくる。
絶叫系の乗り物は小さい頃からダメだった。
一度、同じように小学生の頃の遠足で「乗らないなんて勿体無い」と、みんなに言われ無理やり乗せられたことがある。その時はそこまでの激しいジェットコースターではなかったけど、振り落とされるんじゃないかと言う恐怖と、目を閉じてしまいたいけど閉じると暗闇の中どちらへ体が振り回されるか分からない恐怖でパニックになり、降りた後に座り込んで大泣きした。
乗ろうと無理やり誘った同級生たちは、バツが悪そうに遠巻きに私を見てその場の空気が、無茶苦茶に悪くなった事を思い出す。

どうしよう。
またあの時みたいになる、、?
でも、私だけが乗りたくないって言ったら今このすごく盛り上がってる空気が絶対変な感じになる。

気づいたら、私は手をぎゅっと握り締めて手にはびっしょり汗をかいていた。
今、陸と手を繋いでなくてよかったと思う。

後どのくらいで、私たちの番が来ちゃうんだろう。
だんだんとコースターのガタガタ音も近づいてくる。

落ち着け。
落ち着け。

「あの一番高いとこから、一気に下りる瞬間がたまらないよなー」

陸がジェットコースターのコースで一番高い山を描いているコースの頂上を指差して笑う。
みんながそこを見上げて歓声をあげる。

青空はぬけるように青くて日差しは目に刺さるように眩しくて、私の頭はクラクラした。

「でもさ、あのゆっくり昇ってる時が一番どきどきしない?」

舞がそう言うと、みんな「わかるー」と口々に賛同した。

「一気に降下する時、みんなで手を離しちゃうかー?」

陸は両手をバンザイのようにあげて、楽しそうにクルリとターンして見せた。
みんなが笑っていたから、私も同じように笑って見せたけど、実際はそんな笑えるような状態ではない。

長かった列の真ん中を過ぎて、もう直ぐジェットコースター乗り場の入り口が間近に迫っている。

わたしもだいぶ大人になったし、今なら平気で乗れるかな、意外と楽しいと思えるかな、大丈夫だったりするかな、、

心の中で私は一生懸命に前向きな言葉を唱えていた。
みんながはしゃいでいるのに合わせて、一生懸命笑っていたけど、うまく笑えてるかは分からなかった。

その時だった。

「ごめん!」

突然瑛人が声を上げた。

「え?」

みんなは、急に謝った瑛人の方を振り返る。

「みんなの空気壊したくなくて、我慢してたけどやっぱ無理だわ。オレ、こう言うのマジで無理なんだよ。行けるかなーと思って並んではみたけど、ダメだ。悪いけどパスするわ」

胸の前で謝るようなポーズをして、瑛人はサッと列を離れた。

「マジで言ってんの、おまえ。ヘタレじゃん」

陸が瑛人に呆れたようにそう声をかけると瑛人は

「ヘタレはみんなの飲み物でも買っておくよー」

そう言って笑って手を振った。
そして、瑛人は私の顔をチラッと見てほんの少しだけ頷いたように見えた。

「あっ、あっ、、私も、、」

私は息切れをするような声でそう言い、列を離れた。

「ごめん、私も実は本当に苦手で、、無理で、、」

「え、日菜もなの?意外!」

莉愛が目を丸くしている。

「ま、無理に乗るのはキツイよね」

舞が付け足すように言って、蒼耶も頷いた。

陸は、何も言わずに私を睨むように見ていた。

「ほんと、ごめんなさい。空気壊しちゃって」

私は深々と頭を下げた。

「何よー、大袈裟だよー日菜ぁ。ね、みんな」

莉愛が明るくそう言って笑ってくれたおかげで、その場の空気は少し和んで陸は黙ったまま列の前を向いた。

「じゃ、みんな頑張って!」

瑛人がそう言って、みんなに手を振り見送ると4人は入り口から消えていった。

「ふーっ」

みんなが見えなくなると瑛人は大きなため息をついた。

「お前さぁ」

瑛人は呆れたようにそう言って私の顔を見た。
初めて瑛人にお前と言われて一瞬ドキンとする。

「無理なら無理って言えって」

「え、、」

瑛人は近くにあったベンチにドサッと座った。

「顔真っ青じゃんか」  

立ちすくんでる私の手を瑛人が軽く引っ張って私をベンチに座らせる。

「もしかして瑛人はジェットコースター、、」

「乗れるよ。全然よゆー。」

「じゃ、、私が無理そうなの気づいて、、」

「ま。なんかあの中にいるのもなんとなーく気まずかったし、ちょうどいいよ」

瑛人はそう言うと、大きく伸びをしてあくびをして見せた。

「ありがとう、、」

「てかさー、なんでオレなんだよって感じだよ」

瑛人はそう言いながら、少し離れた場所にある自動販売機に向かい、ペットボトルのジュースを買い始めた。

「暑いし、とりあえずみんなスポドリでいっか」

そう言いながら、ガタンと下に落ちてくるペットボトルを私に手渡しながら6本買うと再びベンチに戻る。

「陸に、、あ、、湯川先輩に誘われたんでしょ?」

「いきなり、この間連絡来てさ。遊園地行くのに急に人足りなくなったから来いって言われてさ。」

瑛人はそう言いながら、1本のスポドリの蓋を開けるとグビグビと一気に飲んだ。

「飲んだら?喉からからでしょ」

瑛人にそう言われて初めて緊張で自分が喉がカラカラなのに気づく。私はペットボトルの蓋をあけて少しずつ喉に流し込んだ。
そう言えば、瑛人と2人あの河原でノートの持ち主探しを始めた時も瑛人が私の分も飲み物を買ってきてくれたっけ。なぜか、そんな事をぼんやりと思い出していた。

「陸とは、、、仲良いの?」

普段から一緒に遊んだりしてるようには、私には見えなかったから。

「仲良くは、、、ないかな。昔の部活の先輩、後輩ってだけだよ。」

瑛人は左手をうちわのようにして顔を仰ぎながら、悲鳴が聞こえるジェットコースターを見上げた。
今頃みんなはあれに乗っているんだろうか。

「じゃあ何で今日瑛人を誘ったんだろ、、?」

私が尋ねると瑛人は、私の方を少しも見ずに

「さあ?他に誰もいなかったんじゃねーの?」

と面倒くさそうにつぶやいた。
それから私達はしばらく何も言わずに、ジェットコースターを眺めていた。一気に急降下していくジェットコースターを見ているだけで目が回ってくる。
やっぱり私にあれは乗れなかった。
だけど、瑛人がいなかったら断れずに今頃無理やりにあそこにいたんだろうと思う。

「あの、、ありがと、、さっき」

つぶやくように言った私の声が聞こえたのか聞こえないのかは分からないけど、瑛人が立ち上がった。

「みんなが帰ってきたぞ」

顔を上げると、前からみんなが走ってくる。

「日菜ーー!!やばかったよー!!」

そう言いながら莉愛が飛びついてきた。そう言いながらも莉愛は笑っている。

「想像以上だったわー、ちょっと足震えてるもん」

蒼耶が笑いながら自分の足を指差してみせる。

陸は、そんなみんなを微笑むような顔で見ながら何も言わなかった。

「ホイ、飲み物」

瑛人が買っておいたペットボトルをみんなに手渡す。

「ありがとうー。叫びすぎて喉からからー」

舞がテンション高めにそう言って笑った。

みんな、それに釣られて笑いみんながそれぞれ飲み物を口に運んだ。その時

「これ飲んだらさ。いったん3組に別れて行動しようぜ」

さっきまで黙っていた陸が突然そう言いだした。

「デートらしい時間も必要だろ、な、蒼耶」

陸は近くにいた蒼耶にそう言うと、莉愛と蒼耶は顔を見合わせた。

「でも、、」

莉愛は少し心配そうに、舞を見る。

「石崎くん、私でごめんなんだけどいい?」

舞は、気を使ってサッと瑛人の横に近寄った。

「全然いいよ。オレでいいなら」

瑛人もそう言って1歩舞の方に近寄る。

「昼は一緒に食べるって事で、また12時くらいに集合しようぜ。」

陸はそう言いながら、私の横に来て私の手をグイッと握ると自分の方に私を引き寄せるように引っ張った。
その力があまりに強くて、私はよろけそうになる。

「じゃまた後で、真ん中の時計前辺りで集合な」

陸がそう言うと、みんなはそれぞれ頷いて違う方向に歩き出した。
私の手を痛いくらいに握って、陸はどんどん前に歩いて行く。長身の陸の歩幅は大きくて決して小さくはない私でも少し早歩きにならないとついていけないほどだった。

もしかして怒ってる?

さっきまでは笑っていた陸が、無表情な事に気づく。

「あの、、どこ行く?」

私は無理に笑ってそう尋ねてみた。

「さっきさ。」

その質問には答えずに、そう言って陸は私の方を見た。

「さっき、、?」

「ジェットコースター、マジで乗れないの?」

陸の声は明らかに不機嫌そうだった。

「ごめん、、小さい時から全然ダメで。早めに言えばよかったよね」

「ふーん。」

陸は少し考えるようにしてそう言うと、再び黙って歩き出した。

「あ、、あれなら乗れるよ」

その空気が重くて私は目の前にあるメリーゴーランドを指差して見せた。

「は?ガキかよ、あんなん乗っても楽しいわけねーじゃん」

陸は私の手を離さないまま、そこを素通りしてグイグイと前へ進んだ。日差しが強くて頭がふわふわした。
結局私たちはひたすら歩き回った。その間も陸はほとんど喋ることもなく私の手を強く握ったままだった。
どのくらいの間そうしていたのか

「ちょっと休憩」

突然、陸が立ち止まった。
そこはちょうど遊園地の端の方で木陰になっていた。
座る場所もなかったけど日陰になっているだけで、気温はずいぶん違って私はホッとしていた。
私は少し大きめの木にもたれるようにして立った。
そこでやっと陸が私の手を離したから、私はもう片方の手でずっと握りしめていたペットボトルを開けて、ぬるくなってしまったスポドリを口に運ぶ。
喉はカラカラ、額からは汗が滲んでいた。

その時だった。

陸が私をグイッと自分の方に引き寄せ、驚いている私の唇に顔を寄せてキスをした。

「っっ?!」

あまりに突然すぎて、また私は目を閉じることもできずに目を見開いたまま突っ立っていた。
しばらく、陸は私の目を見つめたまま動かなかった。
だけど、私は何を言っていいのか、どうしたらいいのか分からないまま、陸の顔を見ていた。相変わらず整った陸の額からは汗がひと雫流れて顎まで伝って落ちた。

陸は私の腰に手を回すとそのまま再び歩き出した。
私の心はやっぱりざわざわしていた。
どうしても、泣きそうな気持ちになる。
キスをされるたび、胸がギュッと掴まれたみたいになって息が苦しくなる。陸に押されるようにして歩きながら私はぼんやりと周りを見ていた。

そんな私の目に、突然瑛人の姿が飛び込んできた。
さっき私たちがいた場所からほんの100メートルもないくらいの場所のトイレの前で、舞を待っているのか1人でこちらを向いて立っている瑛人の姿だった。明らかにこっちを見ているのが分かる。

気づかなかった、いつからいたの?
この距離だから絶対にさっきのキス見られてるよね?

前もだ。
前も、突然陸にキスをされた後瑛人が偶然通りかかったのだ。

陸はそんな瑛人に気づいてないわけがないのにその前をスルーして歩いていく。必要以上に私の腰にまわしている腕に力がこもっているのが分かる。

わざと、、、?

わざと瑛人の前でキスしたり腰に手を回したりしてる?

「陸、、?今瑛人が、、」

私がそう言いかけると

「瑛人?いた?」

まるで気づいてないみたいに陸は答えて、振り返りもせずに歩き続けた。

ねぇ、わざとなの?
もしかして、瑛人の前でわざとやってる?
まさかね、そんな事をする意味も理由もないし。

「なんか、乗りたいのとかある?」

陸は話を変えるようにして私の顔を覗き込んだ。

「か、、観覧車とかは、、ダメかな」

歩く先に見える大きな観覧車。
だけど、、またあんなものつまらないって言うかな。

「観覧車か、、ま、ちょっと歩き疲れたし。いいかもな。」

陸は、思いがけずそう言うと腰に回していた手を離して、私の手を取ると大きく振った。
気のせいか機嫌が良くなったように見えた。

「デカいなー。昔乗ったなこれ」

観覧車の前に立つと圧倒されそうなくらいの大きさで、てっぺんはちょうど高く登ってきた太陽の光ではっきり見えない。

さっきのジェットコースターに比べると並んでいる人もそこまでいなくて、私たちは結構すぐに乗り込むことができた。ちょうど、私たちが乗り込むことになったのは
遊園地の名前が唯一書かれている赤いワゴン。

「小さい頃さ、この一つだけある名前が書かれたやつに乗りたくて、違うと泣いてた気がするなー」

乗り込むと陸はそんな事を言って笑った。

「なんかそれ分かる気がする。これだけ特別な乗り物な気がするんだよね」

私がそう言うと、陸も頷いた。

乗り込んで向かい合わせに座り、観覧車はゆっくりと上に登っていく。
陸は、手すりに頬杖をついて外をぼんやりと眺めて
黙ったままだ。
私も何も言葉を発することなく、沈黙のままゆっくりゆっくりと観覧車は上に向かう。

これは私の勝手な想像だけど、、普通はこんな時にキスをしたりするもんじゃないの?と、そんな事が頭をよぎる。
さっきの、木陰の突然すぎる陸のキスは私から見たら違和感しかない。しかも、そのすぐ近くに瑛人が立っていてきっと見られていたに違いない。
陸だってそれに気づかないわけないのに、まるで知らなかったみたいな言い方をした。

私は、黙って外を眺めている陸の横顔をぼんやりと眺めながらさっきのことを思い出していた。

観覧車はゆっくりと頂上に到達して今度はゆっくりと降り始める。それでも陸は何も言わず、私の方を見ようともせずに外を眺めていた。まるで、私の存在がないかのようなそんな雰囲気だった。

「ね、、これ終わったら次はどうする、、?」

あまりに長い沈黙に私が耐えられなくなり、思わずそう言ってみた。

「んー、、まあブラブラして楽しそーなのあれば行くでいいんじゃない?」

陸はあまり乗り気じゃないような返事をした。

「う、ん、、。じゃそうしよっか、、」

本当に陸の気持ちがわからない。
この遊園地デートだって陸の方から誘ってきたのに、私と2人でいる陸は全く楽しそうじゃない。
もしかして、付き合ってみたら対して好きじゃないことに気づいちゃった的なこと?
だって、全然話したこともない面識がない状態で告白してきたんだもん。あ、全然つまんねー女だったと思われても仕方ない。

いつものくせでどんどんネガティヴな事が頭に浮かんでくる。

ゆっくりゆっくりと下に降りた観覧車が1番に下に到着して私達は観覧車から降りる。
黙って歩き出した陸の背中に何か言わなくちゃと私は声をかけた。

「他のみんなはどこにいるんだろうね」

早足で歩く陸に追いつこうと私は少し小走りになりながらついて行く。

「他のみんなって、、誰のこと言ってんの?」

立ち止まって陸が振り向いた。

「え、だから莉愛とか舞とか、、、」

「さあな。オレら2人でいるのに気になんの?」

陸はいつもこんな風に棘のある言い方をする。
そんな深い意味はなくて、ただ何か言わなきゃ気まずくて言っただけなのに。

「いや、、気になるって言うか、、」

「ほんとは他の奴が気になるんじゃないの?」

「え、、?」

陸の言葉に私は聞き返したけど、なんとなく言いたいことは分かっていた。
陸はたぶん瑛人のことを言っているんだ。
どうしてだかわからないけど、陸は瑛人に対して何か思うとこがある。
今日、わざわざ瑛人を誘ったことも、瑛人のみている場所でいきなりキスをしてきたことも、絶対何か意味がある。
気のせいだと思っていたけど、今までの陸の反応や言動も、そう考えると辻褄(つじつま)が合う気がする。

「せっかく2人きりの時間なのに他の奴のこと気にするとか、デリカシーないの?」

ため息混じりで陸にそう言われて私は胸がぐっと詰まったようになった。

「そ、、そんなつもりないよ。何でそんな言い方、、」

2人でいるのに、少しも陸は楽しそうじゃないし、、

そう続けようとして言葉に詰まり思わず泣きそうになる。思ったことを言おうとすると、言葉より先に涙が出そうになる。下唇を噛んでなんとか泣かないように耐えたけれど、それ以上言葉を発することはできなかった。

どうして陸は私に付き合おうって言ったの?
もうそれすら分からない。
泣きそうになってる私に気づいたのか、陸はそれ以上何も言わなかった。
もう私にとって、陸といるこの時間はもう苦痛でしかなかった。

その時。

「あ、日菜ー?!」

少し離れた場所から莉愛の声が聞こえて、顔を上げると莉愛と蒼耶が走って来ていた。

「あれ、日菜どした?お化け屋敷とか行った?」

私の表情に気づいた莉愛が私の顔を覗き込んだ。

「行ってないよ、大丈夫」

「そう?なんか顔色悪くない?」

もう一度莉愛はそう言って私の顔を覗き込んでから、陸の方を見た。

「ちょい歩きすぎたからバテたかも。な?」

陸はそう言うと私の肩をポンと叩いた。

「そ、そうなんだよ。ちょっと暑すぎたー」

私は思わずそう言って笑って見せた。

「確かに暑いよねー、早めに涼しい場所でお昼にする?舞たち2人で楽しめてるかな」

莉愛は辺りを見渡すようにしてそう言った。

「オレ結構腹減ったかもー」

蒼耶もそう言ってその場に座り込んだ。

「じゃ、そうするか」

陸がそう言うと、莉愛がスマホを取り出した。

「ちょっと舞に連絡してみる」

そう言いながら、莉愛が舞に電話をかけた。

「あれ、、出ないな。もしかしてなんかアトラクションに乗ってる最中かな。。」

しばらく鳴らしたけれど舞は電話には出なかったらしい。

「アイツら意外にいい感じになったのかもよ?」

陸がそう言うと、莉愛が目を輝かせた。

「それだったらいいよねー」

「だね」

そう答えた私を陸がチラッと見たのを私は気づいていた。

「とりあえず約束してた時計の下まで行こ?」

莉愛がそう言って私たちは4人で並んで歩き出した。

「聞いてよ、蒼耶ったらさ。並ぶの嫌だからって空いてるアトラクションばっか選ぶからつまんないんだよ」

莉愛が私の腕に絡み付きながら、そう言って蒼耶を睨む。

「いや、だって、こんなに暑いのにじっと並んでるのは莉愛も大変だから、と思ってさ。」

蒼耶はそんな言い訳をしながらもニコニコしている。
それを見ている莉愛もまた仕方ないな、と言う顔でニコニコしている。もちろんだけど私たちの間みたいなピリピリした空気感はない。

「ご飯食べるとこも並んでるかな」

時計は11時過ぎ。
もしかしたら、ちょうどお昼前で混雑し始めてる可能性もある。

「並んで待つか、、適当にフード買って外で食べるかだけど、、暑いしねー」

莉愛が空を見上げてそう言った。
その時

「あ、舞からかかってきた、はいはーい」

莉愛のスマホが鳴り、どうやら舞からの折り返しかかってきたらしい。

しばらく話した後

「とりあえず時計下に集合ってことにしたよー」

スマホ切った後、莉愛は笑っていた。

「なんか、お化け屋敷に入って叫び倒してたらしい」