不思議なもので、最初は恥ずかしかったのに、少しずつ平気になっていった。
 もちろん、実際に演じるとなったら大きな声を出さなくちゃいけないし、まだまだ超えなくちゃいけないハードルはあるんだけど、絶対にセリフなんて言えないと思っていた第一関門を突破できたのは大きかった。

「ほらっ。やっぱり外の環境っていいでしょ」
「確かにね。誰もいないから見られているって意識もしないし、思ったより平気だった」
「じゃあ、続きね」
「うん。あ……」

 そこは、例のセリフの場面だった。
 さすがになれてきたと言っても、この言葉は恥ずかしい。
 思わず止まってしまい、続けられなくなってしまった。

「あ、榊くん、今だよ! 音に紛れてまず一回、声にしてみよう!」
 伝える三谷さんの声もどんどんと大きくなっていった。
 そう、電車が近づいてきているのだ。
 確かに、これだけ大きければ。
 たとえ至近距離だったとしても、聞こえないはず。

「僕は……僕は……」
 ガタンゴトン、ガタンゴトンと頭上で激しい音が鳴り響く。
 大丈夫。三谷さんにだってこの音なら聞こえない。

「僕は、キミのことが、好き、だよ」

 きっと聞こえていない。そのはずなのに、三谷さんは嬉しそうにほほ笑んだ。
 作戦成功したことが嬉しかったんだろうか。
 電車が通り過ぎたとともに力が抜けて、思わず大きく息をはいた。

「あたしも」
「え?」
 
「あたしも、あなたのことが、ずっと好きだよ」

 すっかり静寂を取り戻した中で、彼女の透き通る声が橋梁の下で響いた。
 隣ではにかむように笑う彼女は、今までで一番輝いていて、思わず見とれてしまう。