悠斗は今思ったことを正直に語った。語っている最中、翔太に怒鳴られると思ったが、翔太は真っ直ぐと真剣な表情で悠斗を見ていた。


「――という感じで、この主人公が翔太君にガチッとはまったというか。今の状況ってそうなのかなって」
「それは、お前が俺をまだ見たことの無い世界を見せてくれるってことか?」
「それは……正直出来るか分からないけど、お互いに手を取り合って、新しい発見をして、翔太君も僕も遭遇したことのない曲を作っていけたらいいなぁ。そう思ったんだ」
「そうか」


 翔太がボソッと言った次の瞬間、翔太は悠斗の手を取り、悠斗の手の甲に軽くキスをした。悠斗はキスされた手をビクッとさせ、目を大きく見開いた。キスされた手から伝わる温もりが体内へ溶け込み、悠斗は耳まで赤くした。


「――キ、キス! な、なんで? ど、ど、どういうこと!」
「ふふっ、悠斗は意外と隙が多いし、こういうのには慣れていないんだな」
「な、慣れてる訳ないよ! そもそもなんでキスしたのさ!」
「そうだなぁ、それはご想像にお任せするさ」
「な、なんか嫌な奴!」


 悠斗は頬を膨らませ、翔太に怒ったが、翔太は腹を抱えて笑っていた。それを見て、余計に腹が立ち、悠斗は席を立つと、ずかずかと窓の方へ行き、閉め切っていた窓を全開にした。しばらくすると、翔太の笑い声は聞こえなくなり、いつの間にか自分の隣に立って、校庭を眺めていた。


「何? 次からかったら、殴るよ」
「お前に殴られても痛くなさそうだな」
「まったく……。人が一生懸命考えているのに、あんなことするんだから」
「悪かった。でも、久々に笑った。もうずっと笑ってなかったからな。とりあえずお互いに協力し合って、曲を完成させような」
「あっ、今、はぐらかした。……はぁ、とりあえず作曲頑張るけど、翔太君は作詞考えてよね」
「分かった。作詞はあんまり得意じゃないが、頭に思い浮かんだフレーズとかを書き留めておく」
「よろしくお願いします」


 音楽室の窓から差し込む夕陽が、二人の顔を柔らかく照らす。そして、お互いに顔を見合わせ、ほんの少しだけ微笑む。


「なぁ、この際だし、連絡先交換しないか?」
「うん、良いよ。って、アイドルと一般人が連絡先交換しても大丈夫なの?」
「えっ? 俺たち、今はもう友達だろ? あと、曲作りで困った時に連絡とれないと厄介だろ?」
「確かに。それじゃ、連絡先交換お願いします」
「はい、お願いされます」


 二人は携帯電話を取り出し、お互いの連絡先を交換した。悠斗はなんだか嬉しくて、自然に頬がゆるむ。そして、音楽室の片づけをしていると、下校のチャイムが鳴り響き、二人は帰る支度をし、それぞれ帰路についた。