早速、悠斗と翔太はお互いのスケジュールを合わせて、曲作りを始めることにした。場所はいつもの放課後の音楽室で、机を並べて話し合うことにした。話し合っている内容が外へ漏れないように、気休め程度であるが、音楽室の窓は全部閉め切った。


「ところで、翔太はどんな曲を歌いたいの? エグゼは激しい感じの曲が多いから、やっぱり、激しいの?」
「いや、その逆だ」
「ということは、バラードが歌いたいの?」
「確かにそうだが、俺はお前のピアノの演奏で歌いたい」
「うーん、だったら、ピアノ基調でミディアムバラードな曲が良いかな?」
「そうだな。エグゼだとスローテンポの曲が無いからな」


 悠斗は楽譜ノートの新しいページに箇条書きで書いていった。しかし、書いたのは良いものの、そこから先がなかなか進まなかった。翔太は顎に手を当て、首を傾げ、考え込んでいた。悠斗はとりあえず今までの楽譜ノートをペラペラとめくり、ヒントになりそうなものを探した。


「うーん、なんかピンとくるものが無いなぁ」
「俺も思い浮かばない」


 次に、悠斗はネタ帳を取り出し、何かいい感じのフレーズなどが無いか調べた。そんな時、翔太が覗き込むように見てきたので、必死に隠した。


「なんで見せてくれないんだ」
「こ、これはなんというか、黒歴史的な感じだし、恥ずかしいの! 覗き見厳禁!」
「なんだよ、つれないな」


 悠斗は翔太に見られないように、ネタ帳をペラペラとめくった。その中に気になる言葉を見つけた。今の翔太の置かれている状況に似ている気がした。しかし、羞恥心もあり、なかなか言い出せずにいた。悠斗は頬を赤くし、ネタ帳で顔を隠しながら、翔太をチラリと見た。


「何かいいのがあったのか?」
「う、うん。一応。でも、見せるのが恥ずかしい。他にも書いてあるから」
「別に恥ずかしがることないだろう? だったら、このノートにその良い感じのやつを書き出せばいいんじゃないか?」
「そ、そうだね。そうする。でも、読んで笑ったりしないでよ」
「大丈夫だ、笑ったりしない」



 悠斗は頬を赤くし、ノートにペンを走らせる。翔太は笑わないと言ったが、正直不安でペンを握る手には余計な力が入り、手汗も凄かった。そして、なんとか書き上げて、翔太に見せた。


「冷たい海を漂う主人公が心優しい旅人と出会い、様々なものに触れるうちに、世界が儚くもこんなに美しいものだと感じ、思わず涙する。……か」
「や、やっぱ、おかしいよね。あははっ、めっちゃ恥ずかしい。他に良いのがないか探して――」
「いや、良いんじゃないか? 『心優しい旅人』はお前だとして。じゃ、この『冷たい海を漂う主人公』って俺のことか?」


 悠斗は翔太の発言に思わず、体がビクッとなった。確かにその通りだ。今の翔太はアイドルとして活躍しているが、自分のことを『ただ言われた通りに後ろで歌って踊る人形みたい』だと言っていて、正直冷たい印象に感じた。自分が何処へ向かうか分からない、ましてやすべてを諦めたかのように海面をプカプカと浮いている、そう思った。