「どれも良いな。お前らしさが出てる。聴いていて、心が穏やかになる」
「ありがとう。最初は恥ずかしくて躊躇しちゃったけど、翔太君が真剣に聞いてくれて、弾いて良かったなって思ってる」


 悠斗は照れ笑いしながら、翔太に答えた。翔太はほんの少しだけ口角を上げ、微笑んでいるように思えた。悠斗はその微笑みにドキッとし、胸のあたりが熱くなった。
 しかし、翔太が微笑んだ時間はあまりにも短く、すぐに切なそうな表情を浮かべる。


「素人の僕がこういうのを聞くのは間違っているかもしれないけど、……何か悩みごととかあるの?」
「何故そう思う?」
「いや、いつも曲を聴き終わった時とか、微笑んでくれたりするけど、何処となく寂しそうというか、切なそうな表情をするというか」
「そうか? 俺はいつも無表情って言われるから、そういう風に見られたのに驚きだ」
「曲もだけど、翔太君は繊細なんだと思うよ」
「繊細?」
「うん、繊細。まだ会って間もないけど、見ていれば分かるよ」
「悠斗はすごい観察眼を持ち合わせているんだな」


 翔太がおもむろに立ち上がり、窓の方へ行き、校庭を黙ったまま眺める。悠斗もつられて翔太の隣に立ち、校庭を眺める。校庭では部活動をしている生徒たちがいて、威勢の良い声が響いている。


「アイドルをしていると、色々と制約が出てくる。やりたくてもやれないことが意外と沢山あって、普通の人が羨ましいよ」
「翔太君……。翔太君はやってみたいこと、ないの?」
「あるにはある」
「例えば、どんなこと?」


 悠斗は翔太を見て、尋ねてみた。翔太は顎に手を当て、考え込んだ。そして、何か閃いたのか、悠斗の両肩をガシッと掴んできた。
 悠斗は一瞬ビクッとしたが、楽しそうな顔をしているような翔太を見て、首を傾げた。


「お前が作った曲を一緒に歌いたい」
「――えっ? えぇっ!」
「そんな驚くこと無いだろ」
「いやいや、流石に僕なんかが作った曲を。しかも、一緒に歌いたいって。何かの冗談でしょ?」


 悠斗は翔太の申し出が唐突過ぎて困惑した。そんな中、翔太は譜面台に置いてある楽譜ノートを手に取り、感慨深い表情を浮かべていた。


「お前の想いが詰まった曲を聴いたり、無意識に歌詞を口づさんだりしているのを見て、俺はお前がすごいなと思った。そして、優しかったり、儚かったりする曲に心を打たれた。俺も歌ってみたいって」
「だったら、翔太君だけが歌えばいいんじゃ? ってか、無意識で歌ってたなんて……なんか恥ずかしい」
「お前の優しくて、柔らかな歌声。俺は好きだ。だから、一緒に歌いたい」
「でも、翔太君にはエグゼの曲が――」
「エグゼの曲はどれも良いが、俺はお前の曲の方が心に響いた。お願いだ、一緒に歌ってくれないか?」