翌日、悠斗は登校後、楽譜ノートを開き、歌詞を考えていた。しかし、昨日の突然の出来事を思い出し、なんだか心がソワソワした。誰かに相談しようかと思ったが、信用できるのは蓮しかいない。蓮がまだ来ないかと待っていると、いつものハイテンションで教室に入ってきて、悠斗の前の席に座る。


「悠斗、おはよう! ってか、今日もそれやってんのかよ」
「蓮、おはよう。あのさ、相談というか、報告というか。あんまり大きな声で言えないんだけどさ」
「おう、聞くぜ」


 悠斗は蓮を手招きし、昨日の放課後に翔太と出会って喋ったことをヒソヒソと話した。蓮はひどく驚き、声を上げそうだったため、悠斗は咄嗟に蓮の口を手で覆った。


「蓮ったら、あんまり大きな声出さないでよ。騒ぎになるでしょ」
「悪い悪い。あまりにも衝撃的過ぎてさ。でも、なんで翔……その人が普通科の校舎に来るんだよ?」
「なんか僕のピアノが聴こえて、来たらしい。芸術科との渡り廊下にでもいたんじゃない? 転校してきたから、ウロウロしてた的な」
「へぇ、そんな偶然あるんだな。それで? なんかあったのか? 脅されたのか?」
「脅されていないよ。ピアノ弾いているのを見られて、楽譜ノート見られて、ちょっと会話しただけ。あっ、また来るって言われた」
「そっかぁ。あの人は見た目怖そうだから、てっきり悠斗が脅されたのかと思った」
「確かに最初は何だろうって身構えたけど、話すと素直というか、普通だったよ。でも、なんだか寂しそうというか、元気がないというか……」
「まぁ、人気アイドルグループの一人だもんな。選抜落ちもあるし、色々と悩みでもあるんじゃね?」
「そうなのかな? 僕なんかが相談乗ってあげたりできないのかな?」
「まぁ、相談乗ってやってもいいんじゃね? どうせ今日も音楽室に来るんだろ?」


 悠斗は難しい顔をしていると、蓮が悠斗の両頬を抓んで伸ばす。悠斗が蓮の腕を掴んで、止めるように訴えた。タイミングよくチャイムが鳴り、蓮は悠斗の両頬から手を離すと、ニカッと笑い、正面を向く。蓮なりの励ましなのだろうか? 悠斗は赤くなった頬を擦りながら、蓮の椅子を軽く蹴った。


 *


 放課後、悠斗はいつものように音楽室へ行き、ピアノを弾く。翔太は本当に来るのだろうかと思いながら、待っていると、ドアが開き、翔太が入ってきた。
「今日は何を弾いている?」
 翔太は興味津々に尋ねてきて、ピアノ近くの窓辺に佇む。
「昔、書いた楽譜があったから、今日はそのノートを持って来て、適当に弾いたりかな」
「そうなのか。本当に音楽が好きなんだな。良かったら、聴かせてくれ」


 翔太は椅子を持って来て、悠斗の斜め後ろに座り、黙ったまま、こちらを見ていた。こんな至近距離で見られると緊張する。しかも、こんなに夕陽の似合う人の前で演奏すると思うと、余計に胸がドキドキする。
 悠斗は心を落ち着かせるために、何度か深呼吸した。そして、曲を適当に選んで、弾いていった。一曲ごとに曲のテーマなどを伝えると、翔太の目は輝いていて、本当に音楽が好きなのだと感じた。