悠斗は翔太がアイドルとしての忙しい生活を送っていることを知る。悠斗は翔太の努力と苦労に心を打たれた。


「翔太君がこんなに頑張っているなんて知らなかった……。僕が無理させちゃったのかな」
「お前のせいじゃない。俺の体調管理不足だ。お前は絶対に悪くない」


 翔太の目には疲労の色が浮かんでいたが、その中には悠斗に対する気遣いも感じられた。こんな時まで気を遣わせていると思うと、悠斗は胸がズキズキとした。


「とりあえず何か食べなさい。またコーヒーばかり飲んでいたんだろ?」
「マネージャー、すみません」
「本当だよ。悠斗君が発見してくれなかったら、今どうなってたか。悠斗君、ありがとうね」
「いえ、僕は何も……」


 悠斗は翔太のために何かできることはないかと考え、翔太を支える決意を固める。


「翔太君、曲の方はどう? 僕はボイトレ終わったから、あとのことは僕がやるよ」
「いや、でも……」
「駄目! 今は休養に専念して。また元気になったら、一緒に考えよう」
「……すまん」


 悠斗は翔太の負担を少しでも軽くするために、スケジュールを調整し、翔太が休める時間を作るようにした。また、マネージャーとも相談し、頭を下げた。
 悠斗はソファで休んでいる翔太とマネージャーの助けを借り、音源データや楽譜、書きかけの歌詞を受け取る。


「悠斗君、本当にごめんね」
「いえいえ! マネージャーさんが謝ることないですよ!」
「とりあえず今日は僕が君を送っていくよ。翔太には後で何か消化に良いものを食べさせるよ」


 悠斗たちは一度、翔太のマンションを後にする。マネージャーの運転で悠斗は自宅へ向かう。その時、マネージャーが突然話しかけてきた。


「悠斗君と出会って、翔太はだいぶ変わったよ」
「えっ? そうなんですか?」
「うん、感情を表に出すようになったし、ダンスも歌も頑張ってる」
「そうなんですね。でも、それは翔太君が頑張ってるからじゃないんですか? 僕は関係ないような」
「僕はそう思わないけどね。仕事の合間にもずっと歌詞考えたりしてたし。まぁ、倒れるほど頑張るのは駄目だけどね」
「僕も翔太君の頑張っている姿を見て、もっと頑張ろうと思いました。でも、無理はして欲しくない。今日の一件ですごい辛い思いしたから」


 悠斗は車窓から見える景色をぼんやり見て、今日のことをふと思い返す。そして、湛えていた涙が頬を伝って、ポタポタと溢れていった。
 悠斗は翔太がまた笑顔になってくれるために、できる限りのことをしようと心に誓い、服の袖で涙を拭った。