ハードなスケジュールをこなす中、互いに進捗を伝えるために普通科の屋上で昼食を摂ることがあった。
 しかし、悠斗は日に日に翔太の様子が少しおかしいことに気づいた。最近の彼がどこか疲れているように見える。また徹夜をしているのだろうか。翔太の笑顔の裏に隠された疲労の影が、悠斗の心に引っかかっていた。
 そして、時は過ぎ、悠斗はボイストレーニングの全日程を無事に終わらせることが出来た。まだまだ改善の余地はあるが、先生から合格を貰った。悠斗は以前、翔太が好きだと言っていたケーキ屋のケーキを買って、翔太の様子を確かめようと思い、その足で翔太のマンションへ向かった。
 翔太のマンションに到着し、インターホンを押す。ボソボソと聞き取りにくい声が返ってきて、オートロックドアが開く。


「翔太君、大丈夫かな?」


 悠斗は胸がざわつき、小走りで翔太の玄関前へ向かい、インターホンを押す。しかし、無音であり、悠斗は不安になり、ドアノブに手をかける。そうすると、ドアは開いており、恐る恐る開けてみると、壁に凭れて、廊下で倒れている翔太がいた。


「翔太君、大丈夫?」


 悠斗は驚いて駆け寄った。翔太の顔は青白く、額には汗が浮かんでいた。


「ちょっと疲れてるだけだ。情けないとこを見せたな」


 翔太は弱々しく笑ったが、その笑顔には力がなかった。悠斗は心配そうに翔太を見つめ、翔太に肩を貸し、フラフラしながらもリビングまで連れて行くと、ソファに寝かせた。


「とりあえず……どうしたらいいんだろ。なんか買ってこようか?」


 悠斗が一人で慌てふためいていると、部屋から携帯電話の着信音が聞こえた。悠斗は部屋へ行き、携帯電話を手にした。画面にはマネージャーと表示されており、悠斗は藁をもすがる思いで電話に出た。


「もしもし、マネージャーさん?」
「もしもし? その声は悠斗君だっけ? 翔太は?」
「あの、部屋に来たら、翔太君が倒れてて! ど、どうしたらいいですか!」
「なんだって! 分かった。今からすぐにそっちへ行くよ」


 悠斗は取り乱した口調でマネージャーへ説明した。そして、マネージャーがこちらへ向かうことを聞き、電話が切れると力が抜けたように座り込んだ。頭が真っ白な状態で呆然としていると、リビングから物音がした。悠斗は慌てて翔太の元へ駆け寄った。


「翔太君、寝てないと駄目だよ!」
「これくらい、大丈夫だ」
「大丈夫な訳ないでしょ! マネージャーさんも心配してたよ。今すぐ来るって」


 数十分後、血相を変えたマネージャーが部屋にやってきた。マネージャーは色々と買ってきたみたいで、ビニール袋をリビングのテーブルに置いた。そして、ソファに横たわる翔太と何やら話し始めた。