悠斗がもがいたり、翔太の体を押し退けたりするが、翔太が離すまいと悠斗の体を引き寄せ、抱きついてくる。なかなか逃がしてくれない。
 悠斗は翔太の顔を見上げ、翔太の胸を何度か軽く叩く。そうすると、翔太は不機嫌そうな顔で悠斗を見た。


「なんだ。俺は徹夜して疲れてるんだ。もう少し寝かせろ」
「いや、そうだけどさ。僕は抱き枕じゃないんだけど」
「最高の抱き枕は徹夜した俺を労ってくれないのか?」
「だから、抱き枕じゃないから。って、翔太君聞いてる?」


 悠斗は翔太に解放するように言おうとしたが、翔太は再び寝息を立てて寝てしまった。確かに徹夜した人を無理矢理叩き起こすのも気が引ける。悠斗は軽くため息をついて、抵抗するのを諦めた。翔太と密着すればするほど、体温と鼓動が体に伝わってくる。あと、香りも。
 悠斗は頬を少し赤らめ、翔太の服を軽く掴み、胸元に顔を埋め、再び目を瞑った。
 悠斗は翔太の抱き枕としての役目を無事に果たし、昼過ぎに解放された。翔太が眠そうな表情をし、キッチンでコーヒーを淹れている姿を見ていたが、さっきの胸の高鳴りが再燃しそうで、悠斗はそっぽを向いて、胸に手を当て、必死に落ち着かせた。


「お前はお茶でいいか?」
「あっ、うん。お茶でお願いします」


 翔太がマグカップを二つ持ってきて、お茶を差し出てきた。悠斗は受け取ると、一口飲む。そして、翔太は部屋から白紙とペンを持ってきて、テーブルに広げると、椅子に座り、数字を書き始める。どうやらカレンダーみたいだ。


「学園祭までの予定を決めるぞ」
「うん、分かった」
「予定は俺が決めていいか?」
「うん、僕は予定なんかないから。翔太君にお任せで」


 ついに学園祭までのスケジュールを二人で話し合うミーティングが始まった。正直、学園祭で歌うことには抵抗あったが、翔太の頑張っている姿や真剣な表情をみていると、「自分はこんなんじゃ駄目だ」と悠斗は腹をくくることにした。そして、翔太が書いたスケジュールを確認した。
 翔太は曲を完成させ、作詞をし、歌割りを考える。悠斗は一週間ボイストレーニングだった。そのあとは、スタジオでの歌合わせをして、学園祭当日という流れだ。なかなかハードなスケジュールだ。


「結構、ハードじゃない? 僕はともかく、翔太君はアイドルのお仕事もあるのに」
「俺は別にフロントメンバーじゃないし、撮影も少ない。他に仕事もないし」
「それより、一週間ボイトレって先生とかいるの?」
「知り合いの先生に頼む」
「えっ! じゃ、お金とかかかっちゃうじゃん。僕、そんなにお金持ってないよ」
「そこは心配しなくていい」
「心配しなくていいって言われても。歌合わせする時のスタジオ代は? こんなに本格的にやらなくても」
「中途半端は嫌だろ? 芸術科の奴らにナメられたくないだろ?」
「まぁ、そうだけど……」
「じゃ、決まりだな。あとの手配は俺がやっておく。お前なら出来るって信じてる」


 翔太はそう言うと、優しく微笑んでいた。悠斗は一瞬ドキッとしたが、決意に満ちた顔で翔太を見つめ、首を縦に振った。