「翔太君のお陰で、最後まで弾けたよ。ありがとう」
「じゃ、次は俺の番だな」
「DTMってどうやるかをそばで見ててもいい?」
「編曲中は基本喋らないし、独り言言うから、見られるのは少し嫌だが。まぁ、邪魔にならない程度なら、そばで見てていい。飽きたら、リビングでテレビでも観てろ」
「うん。邪魔にならないようにする」


 悠斗は翔太と席を変わり、近くにあったスツールに腰掛けた。なるべく邪魔にならないように、後ろ斜めから翔太の作業風景を眺めた。画面を見てもさっぱり分からないが、翔太は慣れた手つきで作業を続ける。
 悠斗は数分間見てるだけで頭がパンクしそうになった。悠斗は諦めてリビングへ行き、ソファに座り、翔太の作業が終わるまで作詞をしてみたり、別の作曲をしてみたりと暇をつぶした。


 *


「おい、起きろ。ここで寝ると風邪引くぞ」


 悠斗は翔太に肩を揺さぶられ、寝ぼけ眼を擦りながら、背伸びをする。いつの間にか寝ていたようだ。悠斗は時計を見ると、夜の十一時を過ぎていた。翔太はマグカップを持っており、そこからはコーヒーの香りがほのかに漂ってきた。


「もう十一時なんだ。翔太君はこんな時間にコーヒーなんか飲むの? 寝れなくなっちゃうよ」
「あぁ、気分転換にコーヒーを淹れただけだ。あとは、作業に集中したくてな」
「どのくらい進んだの?」
「三分の一くらいだな。今日中には仮でもいいから、完成させたい」
「えっ! 徹夜するつもりなの? 体に悪いよ」
「どうせ当分休みだし、今やらないとやる時間が無いからな。学園祭に間に合わないだろ?」
「えっ! 学園祭!?」


 悠斗は一気に眠気が吹っ飛んだ。そして、目を大きく見開き、翔太を見た。そんな翔太は呑気にコーヒーを啜っている。


「が、学園祭で歌うとかじゃないよね?」
「なんだ? 歌わないのか? 折角、良い曲を作ったのに? 俺は勿体無いと思うぞ」
「いや、想定外というか。僕なんかが……」
「作業している間、ずっと聴いていて思った。俺はお前と一緒にこの曲を歌いたいし、お前の作った曲を多くの人たちに聴いて欲しいって」
「でも、歌は正直上手じゃないし」
「何言ってんだ。音楽室ではよく歌ってたじゃないか」
「それとこれとじゃ全然違うよ」
「とりあえず俺はお前と一緒に歌いたい。これは決定事項だ」


 悠斗はやんわりと断ろうとしたが、翔太の言い方はいつもの淡々とした口調だったが、今だけは有無を言わせない威圧感があった。翔太はそう言うと、コーヒーを片手に部屋へ戻り、作業を再開した。