二人は食事を終え、片付けを済ませた。悠斗はふと時計を見た。いつの間にか夜の七時になっていた。


「どうしよう。親に連絡しなきゃ」
「そうだな。今日は俺んちに泊まるしな」


 悠斗は翔太の一言に驚き、思わず翔太の顔を瞬時に見た。流石に冗談が過ぎると思ったが、翔太は至って冷静な表情をしている。


「えーと、流石に冗談だよね?」
「じゃ、お前はここから徒歩で帰るのか? 遠いぞ?」
「確かに。でも、迷惑かけちゃうよ」
「こんな状況で帰るのか? 止めとけ」


 翔太が部屋のカーテンを開けると、外は雨が激しく降っていた。しかも、制服もずぶ濡れだ。翔太の言う通り、泊まるしか無いのか。でも、翔太はツアーが終わったばかりだし、ちゃんと休んでほしいし……そんな考えが頭の中をぐるぐると駆け回る。


「俺のことは心配するな。俺はお前の曲を早く聞いて、DTMで編曲作業がしたい」
「でも……」
「はぁ、早く家に電話しろ。しないなら、俺から電話するぞ」
「わ、分かったよ! 自分で今日は泊まるって電話するから」


 悠斗は翔太に半ば無理やり脅され、親へ友達の家へ泊まる旨を電話した。親からは珍しがられたが、なんとか言い訳をして、事なきを得た。
 悠斗は一安心していると、翔太が部屋から体半分出して手招きしていた。

「じゃ、俺の部屋に来い。メロディを打ち込んでもらいたい」
「うん、分かった。でも、打ち込むってどうやってやるの?」
「それを今から教えてやる。まぁ、ピアノを弾くのと変わりないが」


 悠斗は誘われるがまま、翔太の部屋に入った。翔太の部屋はナチュラルモダンで温かくも落ち着いた印象の部屋だった。そこには、幅広いデスクの上に、デスクトップパソコンに、DTMで使うであろう機材がいくつも並べられていた。
 悠斗はスタジオみたいで、その格好良さに息を呑んだ。
 悠斗は部屋をキョロキョロと見ていると、翔太が背後に来て、悠斗の両肩を持ち、背中を押し、デスクチェアに座るように促され、悠斗は恐る恐る座る。


「お前は目の前にあるMIDIキーボードで作曲したメロディを弾けばいい。それ以外のアレンジは俺がやる」
「うん、分かった。初めてだから、緊張するけど、やってみる」
「俺は別室で仕事してる。何か分からなかったら、声をかけてくれ」


 悠斗は翔太に基本的な使い方を教えてもらい、皺々になった楽譜を見ながら、いつも通りに演奏した。何度かミスをして、翔太に設定をいじってもらったりしたが、なんとか最後まで弾き終えることが出来た。