「今から俺んちに直行な」
「えっ! 本当に行くの?」
「良いから、さっさと乗れ」


 悠斗は翔太の言われるがまま、後部座席に乗車した。そして、反対側から翔太が乗り込んできた。運転席を見ると、スーツを着た男性が座っており、ルームミラー越しに目が合い、悠斗は思わず会釈をする。


「マネージャー、運転よろしく」
「学校に課題提出しに行ったと思ったら……。ごめんね、翔太ってちょっと強引だからさ」
「いえ、そんなことないです。あの、本当に翔太君の家に行っても大丈夫なんですか?」
「うーん、本当は駄目だけど、翔太に言ったとしても、言うこと聞かないからね。本当にマネージャー泣かせ」
「それは何度も聞いた」


 マネージャーとの雑談中も、翔太は濡れた楽譜ノートを一枚一枚丁寧にタオルで押さえ拭きしていた。悠斗はマネージャーから学校での翔太の様子を聞かれたり、今回のライブのことについて聞かされたりした。
 数十分後、マンションの地下駐車場へ入った。そして、車が停まると翔太が車から降りる。


「ついたぞ」
「あの、ありがとうございます。あと、座席濡らしちゃってすみません」
「いいよ、気にしないで。翔太をよろしくね」
「は、はい?」


 悠斗は慌てて翔太の後を追った。翔太はカードキーを駐車場の出入口にあるカードリーダーにかざし、中へ入っていく。悠斗は入って良いものなのか躊躇っていたら、翔太が無言で悠斗の腕を掴み、強引に中へと入らされた。
 二人はエレベーターに乗り、三階に到着し、共用廊下を真っ直ぐ進み、角部屋に着いた。翔太が鍵を開けると、悠斗を部屋へ押し込んだ。そして、悠斗は翔太のなされるがままにバスルームへ案内された。


「とりあえずシャワー浴びろ」
「えっ、いいの?」
「いいの? じゃないだろ。そのままだと俺の部屋の床が濡れる。浴びてる間に部屋着を用意する」
「うん、分かった。ありがとう」


 悠斗は戸惑いながらも、服を脱ぎ、シャワーを浴びる。悠斗はサッパリとして、浴室から出ると、脱衣所にあるかごにタオルと新しい着替えが置いてあった。ボクサーパンツも置いてあったが、履いて良いのか分からず、体を拭きながら考え、翔太の好意に甘えて履くことにした。悠斗は身なりを整えて、翔太がいるであろうリビングのドアを開けた。
 リビングでは翔太が楽譜ノートを一枚一枚乾かしていた。


「シャワーありがとう。あと、服とかもありがとう。ちょっとダボダボだけど」
「あぁ、上がったか。すまんが、楽譜ノートを乾かしているが、時間がかかりそうだ」
「そんなことしなくても大丈夫だよ。こことここのページがあれば十分」
「そうか。じゃ、お前が乾かしている間に、俺は飯でも作る。適当に座ってろ」
「えっ、ご飯は大丈夫だよ。そこまでしてもらわなくても――」


 悠斗は申し訳無さそうに言ったが、体というものは正直で、悠斗の腹が盛大に鳴った。その音を聞いた翔太は鼻で笑い、キッチンへ向かい、料理を始める。悠斗は顔を真っ赤にし、黙ったままダイニングテーブルの椅子へ座り、楽譜ノートを乾かす作業をした。
 楽譜ノートは皺々になっていたが、鉛筆で書いていたこともあり、滲むことなく、なんとか読める程度にはなった。悠斗は安心して、思わず肩の力が抜けた。
 そうこうしているうちに、美味しそうな香りが漂い、翔太がキッチンから料理を運んでくる。


「今、冷蔵庫の中に何もなくて、肉野菜炒めしか出来なかったが。ご飯も冷凍していたやつだから、味は期待するな」
「ありがとう。翔太君が丁寧に拭いてくれてたお陰で、楽譜はなんとか読めるよ。ありがとう。これで曲作りに間に合ったぁ」
「そんなこと、今はいい。まずは飯を食え。冷めるだろうが」
「うん。では、いただきます」
「味はどうだ?」
「んっ! めちゃくちゃ美味しい。体に染みるぅ~」
「ふっ、お前って面白いな」


 悠斗は両頬に手を添え、体をくねらせながら、美味しさを体で表現した。それか面白かったのか、翔太が鼻で笑う。そして、自分も食事を摂り始めた。