「ヤバい。雨が降ってきた。早く探さないと」


 ほんの数分前は曇天だったのに、階段を下りている間に降り始めたのだろう。悠斗は上履きのまま、校庭の茂みを探した。探している間に、雨はどんどんと強くなり、破られた楽譜ノートが見つかった時には全身びしょ濡れだった。
 悠斗は足早に渡り廊下に戻り、楽譜ノートの水気を取るようにパタパタと振った。たぶん乾かせば大丈夫だろうと思い、悠斗が音楽室の方へ戻ろうとした時、誰かにぶつかった。


「――っ! あっ、ごめんなさい!」


 悠斗は咄嗟に頭を深々と下げ、謝った。そして、相手の顔を見たら、まさかの翔太の姿だった。悠斗は目を大きく見開き、驚いた。そして、同時に抱えていた破られた楽譜ノートを後に隠す。


「なんかされたか?」
「えっ! いや、何も。ちょっと探し物してて。そしたら、急に雨が酷くなっちゃって。本当に困っちゃうよね。あははっ」
「とりあえず来い」


 悠斗はぎこちない笑顔を浮かべながら、しどろもどろで答えていると、翔太は眉間に皺を寄せていた。そして、一言言うと、悠斗の腕を掴み、階段を上がり、音楽室へ連れて行かれた。


「はい、これ」
「えっ、これって?」
「そのままだと風邪引くだろ」


 翔太は持っていた袋を渡してきた。というより、押しつけてきた。悠斗は袋を受け取ると、中身を見た。そこには、エグゼのライブTシャツとタオルが入っていた。悠斗は袋と翔太を二度見して、戸惑った。その姿を見た翔太はため息をつき、早く着替えるように急かしてきた。


「突っ立ってないで、早く着替えろ」
「あ、う、うん。あ、ありがとう」


 悠斗は雨で濡れて張り付いたシャツを脱ぎ、タオルで体を拭き、ライブTシャツに着替えた。ズボンはタオルで拭くが、限界がある。悠斗は諦めて、タオルを首にかけた。とりあえずタイミング良く着替えることが出来て良かったと安堵する。


「これ、乾かさないと駄目だな」
「うん。――って、えっ! 僕の楽譜ノート!」
「ドライヤーとかがあれば良いが、皺々になるか……」
「大丈夫だよ。家で乾かしたり、書き写したりするから」
「じゃ、俺んちに来い」
「いやいや! それは流石に!」
「なんでだ?」


 翔太はきっと無自覚なのだろう。アイドルの家に一般人が行くのは駄目なはずなのに。悠斗が戸惑っていると、翔太はどこかに連絡し始めた。そして、電話が終わると、音楽室の片付けをささっとやり始めたので、悠斗も急いで片付けをする。


「じゃ、校門前で待ってるから」
「えっ、待ってるって」


 悠斗は言っている意味が分からず、聞き返そうとしたが、翔太はそそくさと音楽室を後にした。悠斗は首を傾げ、濡れたシャツを袋に入れ、学生鞄を肩にかけ、急いで校門前へ向かった。
 校門前には、黒い車が停まっており、その前で翔太が待っていた。