「もしかして、翔太君の友達だったりして?」
「一応、そうですけど……。因みに、今日は翔太君は来ませんよ」
「翔太君が普通科のこんな奴とつるんでるとか、あり得ないでしょ。友達とか言っちゃって、あんたのただの勘違いじゃない?」
「用がないなら、帰ってください。今から片付けようと思っているので」


 悠斗は冷たい口調で女子たちに言った。そうすると、一人の女子生徒がツカツカとやってきて、睨みつけてきた。
 悠斗は一瞬怯んだが、無視して片付けを始めようとした瞬間、女子が譜面台に置いてあった楽譜ノートを奪った。悠斗は取り戻そうとしたが、男子に行く手を阻まれた。


「ってか、何これ? ……え、曲とか作ってんの? ヤバくない? 普通科のくせに芸術科の真似事しないでくれる?」
「――あっ! か、返して下さい!」
「いいじゃん、ちょっと見せてよ。普通科のお遊びがどの程度か知りたいから」


 悠斗が楽譜ノートに手を伸ばそうとするものなら、それを払いのけるように男子が邪魔をする。その男子の後で女子二人は楽譜ノートを見ながら、馬鹿にするような笑い声を上げていた。


「か、返して下さい!」
「……は? なんで? 大体さ、なんでアンタみたいな普通科の奴が翔太君と仲良くしてんの? マジであり得ないんですけど。良い気になってんじゃねぇよ。調子に乗るとこうなるんだからね」


 悠斗は負けじと取られた楽譜を奪い返そうとするが、ついには男子に羽交い締めにされ、身動きが取れなくなった。そして、女子は不敵な笑みを浮かべ、悠斗の目の前で楽譜ノートを破り、窓から投げ捨てた。


「ちょっ、ちょっと! 何するんですか!」
「普通科の分際で調子に乗るからでしょ」


 悠斗は男子の拘束から逃れ、急いで窓から身を乗り出したが、楽譜ノートは散っていく桜のようにひらひらと校庭へ落ちていった。


「なっ! なんて事するんですか!」
「翔太君を独占するからだよ」
「ぼ、僕は別に独占してるつもりはないです!」
「はっきり言って、存在が邪魔」


 その後も悠斗は女子たちから執拗にある事無い事を言われ、涙が溢れそうだった。


「うわぁ、コイツ泣きそうなんですけど。ウケる。言われんのが嫌なら、仲良くするのやめなよ。ってか、逆に、翔太君が可哀想だから、マジで関わんないで」


 女子たちは悠斗を睨むと、連れの男子たちとともに音楽室から出ていった。女子たちの足音が聞こえなくなったのが分かると、悠斗は緊張の糸が切れたように、その場に座り込んだ。


「別に誰と仲良くなってもいいじゃん」


 悠斗はズキズキと痛む心を落ち着かせ、破られた楽譜ノートを取りに音楽室を出て階段を下り、一階の渡り廊下に出た。