悠斗は翌日、蓮に翔太と電話が出来てスッキリしたと伝えると、自分のように喜んでくれた。
 悠斗は気合を入れて、曲作りをするために何をすればいいか改めて考えた。中途半端なものを作りたくない思いが強かった。
 悠斗は夏休み期間中の音楽室の使用許可申請を出したり、ミディアムバラードの曲を聴いたりして、色々と準備を進めた。
 そうこうしているうちに、エグゼの全国ツアーが始まり、数週間後には夏休みへ突入した。
 悠斗は夏休み中も学校へ通い、いつもの音楽室で曲作りに励んだ。あーでもないこーでもないと独り言を呟きながら、楽譜ノートにメロディを書いたり、消したりを繰り返す日々が続く。
 悠斗は翔太に定期的に進捗具合をメールで伝えた。悠斗は、翔太は全国ツアー中で忙しいから、きっと返信はないと思っていたが、メールを送った日の夜か翌日位には返信が届いていた。


「翔太君も頑張ってるし、自分も頑張らなきゃ」


 悠斗は毎日、自分にそう言い聞かせながら、カレンダーにバツ印をつけていく。
 少しずつ形になっていく曲に自画自賛しながら過ごしていると、気付けば、八月も終盤になっていた。エグゼの全国ツアーも終わり、あと数日で夏休みが終わってしまう。悠斗は若干焦りを感じ、翔太と直接会うまでには完成させたいという気持ちでいた。
 今日は朝から雲が広がり、午後には雨の予報だとニュースで言っていた。悠斗は、今日は早めに切り上げて帰った方が良いなと思っていた。


「雨になる前に、ある程度完成させて、帰らなきゃ。頑張るぞ!」


 悠斗は自分を奮い立たせ、ピアノを弾いては楽譜に書くを繰り返した。
 悠斗はキリの良いところまでやり終え、少し休憩をしていると、廊下から女子生徒たちの会話が聞こえてきた。女子生徒たちの喋り声と足音が徐々に音楽室へ向かってきている気がした。


「夏休みに呼び出しとか、マジ勘弁なんだけど」
「マジで補習とか無いわぁ」
「あ、噂で聞いたんだけど、結構前から普通科の音楽室に翔太君が出入りしてるらしいよ。見に行こうよ」
「マジで? でも、エグゼって今、全国ツアー中じゃないっけ?」
「いつの話してんの。もう終わってるよ。だから、ワンチャンいるんじゃない?」


 悠斗はなんだか嫌な予感がし、胸がざわついた。悠斗の予感が的中し、音楽室のドアが突然開いた。そちらに目線をやると、男女四人組が立っていた。ネクタイの色からして芸術科の生徒たちだ。


「なんだ、いないじゃん」
「おかしいな。ここにいるって聞いたんだけど。ってか、普通科のやつしかいないじゃん」


 女子は翔太がいない事にガッカリした。そして、女子は悠斗の存在に気付くと、悠斗を嘲笑った。