「何? 急に黙っちゃって。もしかして、俺のことを考えてくれてんの?」
「えっ! ごめん。つい黙り込んじゃって。考えごとしてた」
「あのさ、さっきのアレって『好き』のドキドキ?」
「す、好き!? な、な、な、なんでそうなるの? す、好きとか、どこから出てくるのさ」


 悠斗は翔太の言葉にひどく驚き、思わず声が裏返り、早口になる。悠斗の慌てた口調を聞いた翔太は電話越しで笑いを内側に押し込むような喉の奥で堪える声が聞こえてきた。


「そんな笑わなくてもいいじゃん。だって、そういうの経験したことないし。完全に馬鹿にしてるでしょ?」
「くくっ、馬鹿にはしてない。いや、お前って面白いなって。因みに、俺のお前に対するドキドキは『好き』のドキドキだぞ。今こうやってお前の声が聞けて、すごく嬉しいし、すごいドキドキしてる。お前以上にな」
「な、何言ってんの!」


 悠斗は翔太の甘い囁きに似たような発言を聞かされて、思わずたじろぐ。顔も耳も熱くなり、変な汗が出て、携帯電話を持つ手が小刻みに震えて、床に落としそうになる。悠斗は心を落ち着かせるために、何度か深呼吸し、咳払いをする。深呼吸をしているのがバレていたのか、翔太が電話越しでクスクスと笑っていた。


「ゴホンッ。そ、それより、曲作りの話だけど」
「ん? 完成したのか?」
「いや、実はまだ完成していないんだ。というか、作れていない」
「そっか。まぁ、俺がお前に無理なお願いをしたからな。仕方ない。負担になるんだったら、断っても良いんだぞ?」
「負担だなんて、思ってないよ。それより、翔太君のSNS見たよ」
「あー、見たんだ」
「実はさ、SNSってあんまりやらなくてさ。友達から翔太君のSNSのことを聞いて、今更ながら見させて貰って、すごいなって」
「すごいって? 写真と感じたことをただ載せてるだけだけど。他の奴もそういうのやってんだろ」
「確かにそうかもしれないけど、僕にとってはすごいことだよ! 見ていて、グッときたもん。あーっ、自分も曲作りを頑張らないなって。そう思わせてくれた」
「そりゃ良かったな」
「翔太君がエグゼの全国ツアー頑張っている間、僕も頑張って曲作りするね。出来るだけ早く完成させて、聴かせてあげるよ!」


 悠斗はエグゼの全国ツアーの間に曲を完成させると翔太に宣言する。翔太は優しい口調で返事をしてくれた。電話越しで翔太の顔は見れないが、きっと微笑んでいるだろう。悠斗はそんな気がして、思わず頬が緩み、心がじんわりと温かくなった。


「原曲が出来たら、教えてくれ。俺がDTMのソフトで編集したり、音源を使ってドラムやベース、コード楽器とかを打ち込むから」
「うん、なんか想像出来ないけど、すごそう。翔太君も頑張ってるから、頑張らなきゃ」
「俺もお前が頑張ってる姿を想像して、ツアーのリハも本番も頑張るよ」
「うん、お互いに頑張ろうね」


 悠斗は別れの挨拶を交わし、電話を切った。悠斗は大きなため息をつき、ベッドに倒れ込み、天井を見上げた。今までの会話を思い返し、悠斗はスッキリとした気持ちとやる気に満ち溢れているのを実感した。