『旅人と出会って、世界の見方が変わった。今、離れ離れだとしても、心は通じ合っていると思う。俺は俺自身に変化を与えてくれた旅人に感謝している。これからいくつもの障害が待ち受けているかもしれないが、俺はいつでも旅人のそばに存在し続けたい』


 メッセージの最後にはピアノが夕陽に照らされている写真が添付されていた。悠斗は写真の撮られた場所が普通科の音楽室だとすぐ分かった。
 それと同時に、悠斗は『旅人』が自分のことを指していると直感で思った。
 悠斗は翔太がそういう風に思ってくれているのだと分かって、瞼を焼くような熱い涙がボロボロと目から自然と流れ出てきた。腕で涙を拭ってもなかなか止まらない。悠斗は涙で携帯電話の画面をまともに見れず、無言で蓮に返した。


「悠斗を信頼しているんだよ。あの人は悠斗へ届くように毎日写真を撮っては投稿してたんだと思うぞ。いい加減、連絡取ってみたら?」
「うん、連絡取ってみる。あーっ、いっぱい泣いたし、胸のモヤモヤもすっきりした。……でも、どうしよう。メールの方が良いかな?」
「馬鹿か、お前は! こういう時こそ電話だろ。ってか、直接会って、面と向かって話せば良くね?」
「いや、そんな簡単に言うけどさ、相手はアイドルだよ。真夏の全国ツアーのリハーサルも始まっているだろうし、迷惑かかっちゃうよ」
「駄目だ! 今日中に電話しろ。いいか? 分かったな?」
「そんな頭ごなしに言わなくてもいいじゃん。メールだけでも結構気を遣うのに」


 悠斗は蓮に翔太へ連絡するように念を押された。そして、蓮はグチグチ文句を言いながら、随分前から空になったジュースの缶をゴミ箱に捨て、帰りの支度をする。


「悠斗、ボサッとしてないで帰るぞ」
「あっ、うん。今、急いで準備する」
「あっ、そうそう。今回の相談料はジュース一本じゃ足んねぇから、今度ファミレス奢りで」
「はぁ? 蓮は滅茶苦茶食べるじゃん。奢ったら、破産するわ」
「まぁ、進展があるだろうし、どこかで飯食いながら、話そうぞ。これは決定事項だかんな」
「蓮は一体、僕たちのことをどういう目で見てんの?」
「そうだなぁ。友達以上恋人未満ってとこかなぁ」
「はぁ? 何それ。 あの人とはただの友達だし」
「どうだか」


 蓮が終始ニヤニヤと口元に笑いを浮かべて、冷やかすような口調で言い、今にも逃げようと教室を出ようとした。悠斗は蓮を睨み、蓮を追いかけた。蓮は自分より足が遅いため、下駄箱のところで引っ捕まえて、学生鞄で蓮の頭を叩いた。