現地でメーカーの営業マンと待ち合わせ、現在空き部屋になっている間取り違いの数部屋を案内する。先方から提案されたイメージ図案と照らし合わせながら、課題点などを洗い出していく。いかにも仕事という感じでやり甲斐がある。課長も満足しているようだ。点数を稼ぐのにはうってつけの案件だ。俺は手応えを感じながら、課長とともに営業マンを見送った。

「大川君、良かったぞ。今日一日でだいぶ話が進んだな」
「先方の案にほぼ手を入れなくてもいけそうなので、ほっとしてます」
「そうだな。これなら予算にも影響はなさそうだ。ところで、あれはどうなった?」
「あれ、ですか?」
「福祉課から持ち込まれた件だよ、なかなか手強い住民らしいじゃないか」
「ああ……、はい……」
 思い出して俺の心はまたざわついた。須崎さんや林さんからの連絡を待つばかりで俺自身は何も動いていない。
「少々難航していますが、いろいろと考えてはいます」
「ひとつ頼むよ」
「はい」

 あ。はいって言っちゃったよ俺。ホント深く考えないでものをことうんだよなぁ、俺って。
 はいと言った手前動かざるを得ない。俺は課長と別れ、サ店へ顔を出すことに決めた。須崎さんにどうなったか聞いてみるだけ聞いてみよう。

 店の中から、珍しく子どものはしゃぐ声がする。高齢者がほとんどのこの団地に子どもの声が響くのは、誰かの家族が遊びに来た時くらいだ。予想通り老齢の女性とその家族らしい三人組が、わいわいとサ店から出てきた。ちょうど帰るところのようだ。

「ありがとうございました」
 子どもがいるからか、須崎さんはドアを開けて見送りに出ている。ちょっと離れたところで様子を見ていた俺に気がつくと、黙礼を返してくれた。俺も頭を下げ返そうとした時。

(あれ、福留さん?)

 店先にあるイヌツゲの植え込みが死角になっていたが、杖をついた老人がサ店に向かって歩いているのが見てとれた。
 須崎さんは俺に目配せをすると、福留さんに手を貸そうと動き出した。だがそれより一瞬早く、先ほど店を出た子どもがイヌツゲの様子を見に駆け寄ってきては、また家族の元へ── 福留さんの横を駆け抜けるように戻って行き、その僅かなヒヤリハットが福留さんのバランスを崩した。
「あっ」

 焦った俺が動き出すより早く須崎さんが駆けつけ、福留さんの身体を支えていた。
「大丈夫ですか?」
 須崎さんが福留さんへ声を掛けると、福留さんは苦笑いをして言った。
「情けねぇな。こんなんでよろけちまってよ」