「碧〜。今日めっちゃ上の空じゃなかった? なんかあったの?」
ユニフォームから私服に着替えていると、隆太に話しかけられた。
「や、べつに。就活どーしよっかなって」
「え。お前まだなんもやってねーの?」
「……そんなやばい? おれ」
「スーツは?」
「持ってない」
おれの返事に、隆太がため息をつく。
「明日、なんかある?」
「なんもないけど」
「スーツだけでも買い行くぞ」
*
「いらっしゃいませー」
……乙葉さんだ。
店員スマイルを向けられている。
「こいつのスーツを買いに来たんですけど」
「メンズのスーツですと、こちらのエリアになります」
いつもの柔らかな笑みで案内してくれる。が、目が合わない。
あれ、気づいてない?
いやまさか。
一昨日話したばっかだし。
仕事とプライベートを分けるタイプなんだよな、たぶん。
「あ、これとかいいんじゃね?」
「たっか」
「スーツはこれくらいするって。あ、ちゃんと金持って来た?」
「まぁたぶん、カードあるからなんとか」
「シフトそこそこ入ってんじゃん。バイト代何に使ってんだよ」
「ふつーに生きてたらなくなるだろ」
クスッ。
小さな笑い声。乙葉さんだ。
「あ、ごめんなさい。仲いいんだなって思って。ごゆっくりお選びください」
乙葉さんが離れていく。
「あの店員さん、かっわいーよなぁ」
そう発した隆太の頭を軽く叩く。
「変な目で見てんじゃねーよ」
「わりぃ、つい」
一番変な目で見てんのはおれなんだよな……。
でも。また会えた。
もう会えないと思ってたのに、会えた。
今になって実感が湧いてきて、
心臓の鼓動が、少しずつ早くなっていく。
めっっちゃくちゃ、嬉しい。
「碧、聞いてる?」
「あ、ごめん、なに?」
「これかこれがいーんじゃないかと思うんだけど」
「あ〜……じゃあ、こっちにする」
正直、スーツの良し悪しなんてわからない。
再確認できたのは、乙葉さんに対する気持ちだけ。
「隆太、まじでごめん。財布忘れた」
「はぁ? 何やってんだよ」
「明日また来るわ。せっかく付き合ってもらったのに、ごめん」
「まったくだよ。今度おごれよ〜」
「じゃあジュースおごるわ」
「ケチくせぇなお前」
乙葉さんに視線を向けると、こちらに歩いて来てくれる。
「すみません、財布忘れたんでまた明日来ます」
「……明後日」
「え?」
「明後日のこの時間だと、嬉しいです」
それって、明後日のこの時間なら、乙葉さんいるってこと、だよな?
手のひらに、汗がじわっとにじむ。
明後日。明後日。
うわ、やばい。楽しみすぎる。
いやスーツ買いに来るだけだけど。
頬がゆるまないように引き締めて、コクリとうなずく。
「明後日、来ます。この時間に」
「お待ちしています」
*
「……なんっだよお前いまの」
沈黙を破ったのは、隆太だ。
軽くおれをにらんでる。ように見える。
「いや、なんでもないって」
「あぁ? ありありだろーが」
うわ、おれ今凄まれてる。
隆太じゃなかったらフツーにこえぇ。
「俺には変な目で見るなっつったくせに」
「ごめんってば」
「今度ファミレスおごりな」
「わかったよ」
「あぁ、俺も彼女ほしーー!」
乙葉さんは、彼女じゃないんだけど。
……あんな風に誘ったってことは、カレシ、いないってことだよな。
乙葉さんのとなりで、乙葉さんの話し声と笑い声を聞ける場所にいられたら、どんなに幸せだろう。
バッグの中の財布に、そっと視線を落とす。
まじでごめん、隆太。
ユニフォームから私服に着替えていると、隆太に話しかけられた。
「や、べつに。就活どーしよっかなって」
「え。お前まだなんもやってねーの?」
「……そんなやばい? おれ」
「スーツは?」
「持ってない」
おれの返事に、隆太がため息をつく。
「明日、なんかある?」
「なんもないけど」
「スーツだけでも買い行くぞ」
*
「いらっしゃいませー」
……乙葉さんだ。
店員スマイルを向けられている。
「こいつのスーツを買いに来たんですけど」
「メンズのスーツですと、こちらのエリアになります」
いつもの柔らかな笑みで案内してくれる。が、目が合わない。
あれ、気づいてない?
いやまさか。
一昨日話したばっかだし。
仕事とプライベートを分けるタイプなんだよな、たぶん。
「あ、これとかいいんじゃね?」
「たっか」
「スーツはこれくらいするって。あ、ちゃんと金持って来た?」
「まぁたぶん、カードあるからなんとか」
「シフトそこそこ入ってんじゃん。バイト代何に使ってんだよ」
「ふつーに生きてたらなくなるだろ」
クスッ。
小さな笑い声。乙葉さんだ。
「あ、ごめんなさい。仲いいんだなって思って。ごゆっくりお選びください」
乙葉さんが離れていく。
「あの店員さん、かっわいーよなぁ」
そう発した隆太の頭を軽く叩く。
「変な目で見てんじゃねーよ」
「わりぃ、つい」
一番変な目で見てんのはおれなんだよな……。
でも。また会えた。
もう会えないと思ってたのに、会えた。
今になって実感が湧いてきて、
心臓の鼓動が、少しずつ早くなっていく。
めっっちゃくちゃ、嬉しい。
「碧、聞いてる?」
「あ、ごめん、なに?」
「これかこれがいーんじゃないかと思うんだけど」
「あ〜……じゃあ、こっちにする」
正直、スーツの良し悪しなんてわからない。
再確認できたのは、乙葉さんに対する気持ちだけ。
「隆太、まじでごめん。財布忘れた」
「はぁ? 何やってんだよ」
「明日また来るわ。せっかく付き合ってもらったのに、ごめん」
「まったくだよ。今度おごれよ〜」
「じゃあジュースおごるわ」
「ケチくせぇなお前」
乙葉さんに視線を向けると、こちらに歩いて来てくれる。
「すみません、財布忘れたんでまた明日来ます」
「……明後日」
「え?」
「明後日のこの時間だと、嬉しいです」
それって、明後日のこの時間なら、乙葉さんいるってこと、だよな?
手のひらに、汗がじわっとにじむ。
明後日。明後日。
うわ、やばい。楽しみすぎる。
いやスーツ買いに来るだけだけど。
頬がゆるまないように引き締めて、コクリとうなずく。
「明後日、来ます。この時間に」
「お待ちしています」
*
「……なんっだよお前いまの」
沈黙を破ったのは、隆太だ。
軽くおれをにらんでる。ように見える。
「いや、なんでもないって」
「あぁ? ありありだろーが」
うわ、おれ今凄まれてる。
隆太じゃなかったらフツーにこえぇ。
「俺には変な目で見るなっつったくせに」
「ごめんってば」
「今度ファミレスおごりな」
「わかったよ」
「あぁ、俺も彼女ほしーー!」
乙葉さんは、彼女じゃないんだけど。
……あんな風に誘ったってことは、カレシ、いないってことだよな。
乙葉さんのとなりで、乙葉さんの話し声と笑い声を聞ける場所にいられたら、どんなに幸せだろう。
バッグの中の財布に、そっと視線を落とす。
まじでごめん、隆太。