クリスマスイブ。僕と陽希が向かったのは、海の側のショッピングモールだった。
 エントランスに大きなツリーがあった。白い幹と枝葉に銀色の飾りがついた、お洒落なものだった。

「陽希、写真撮ってもらおうよ! 二人で写したことってなかったしさ」
「いいね」

 付き合って一ヶ月が経っていた。平日は、登下校を共にして、陽希の部屋に行って。休日も、家族の予定がない限りは二人で会って。ということは……三十回以上はキスをしていた。

「おっ、よく撮れた。俺ホーム画面に設定しようっと」
「僕もする!」

 それからピアッサーを買いに行った。針になっていて、耳に穴を開けるためのものだ。いくつか色があったが、サファイアみたいな青いものにした。
 クリスマスらしく、ケーキを食べることは僕の中で確定していた。喫茶店に入るのは並んだが、陽希と一緒だから待ち時間すら楽しかった。

「僕、ブッシュドノエルがいい。クリスマスといえばやっぱりこれでしょ」
「でもこれ、けっこう大きいぞ? 二人で食べ切れるか?」
「大丈夫!」

 喫茶店で向かい合って座って、ケーキが運ばれてくるのを待った。陽希が言った。

「なんか……まだ夢見てるみたい。こうして千歳と恋人としてデートできるなんて」
「夢じゃないよ。現実だよ」

 ブッシュドノエルには、ふんだんにチョコクリームが塗られていて、サンタクロースや雪だるまなどの可愛らしい飾りがついていた。

「陽希、サンタ食べたい。あーんして」
「しょうがないなぁ。はい、あーん」

 勢いがついてしまって、僕は陽希の指までくわえてしまった。

「千歳、がっつきすぎ」
「だってぇ」

 付き合ってからも、静人と大我の態度は変わらない。オリジナル曲を作るという新たな目標ができたことで、僕たち四人の結束はさらに強いものになっていると思う。
 そして、僕たちは高校を卒業してしまう。軽音部は永遠ではない。けれど、僕たちが音楽に懸けたという証が残せたのなら、これ以上の幸せはない。

「やべぇ、腹いっぱい。千歳、残り食べれる?」
「任せてよ」

 ケーキを食べ尽くし、陽希の部屋に行った。陽希は消毒液などをすでに用意していた。まずは僕が陽希にピアッサーを刺すことになった。

「いくよ……」

 カチン。すぐに反対側。こちらもカチン。

「陽希、どう?」
「思ってたより痛くなかった。次、千歳な」

 僕にも刺してもらった。お揃いの青い石。僕たちが恋人同士であると刻まれた。

「なぁ、千歳……ちょっとごろーんってしよう」
「いいよ……」

 僕たちは陽希のベッドに横たわり、ぎゅっと抱きしめ合った。陽希の長い腕の中にいると、落ち着くような、落ち着かないような、不思議な気分になる。

「陽希。好き。好き。大好き」
「そんなに言わなくてもわかってる」
「陽希は僕のこと好き?」
「好きだよ」
「僕も好き」
「このやり取り、終わんないじゃん」
「終わらなくてもいいよ?」
「一旦終わり」

 陽希は僕の頭を撫でてきた。 

「千歳、歌詞作りはどうよ?」
「手こずってる。書きたいこと、たくさんありすぎてまとまんない。でも、タイトルは決めたよ」
「へぇ、何ていうの?」
「僕の歌が君に響いたら」

 そして、僕は陽希の頬をさすり、そっとキスをした。