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 選択授業から戻ってもユミと話すきっかけが掴めない。今日に限って常にユミの回りに人が取り巻いていて、全然二人で話せないのだ。

 モヤモヤ……。いつまでも、どうしても消えない。
 こんな感じ、嫌だ。モヤモヤしてどうするんだよ。そもそもユミに他意はなかったんだ。ただ、他の奴らともキスをしたから、俺はどうなのかなって思って試したくなっただけだろう?

 俺は……俺もこんなふうになるだなんて思いもしなかったけど、初恋は幼稚園の先生で、それ以来恋もしていない奥手な男たから、あのキスとユミの照れた笑顔だけで簡単に堕ちてしまって。

 馬鹿だよなぁ。ユミ、言ってたじゃん。
「キスなんかコミュニケーションだろ」って。ユミにとったら男同士のキスは、なんでもない日常のひとこまなのだ。そうやってまた、次は別の男友達と遊びの延長でキスをするんだ。

 それのなのに、俺が変な独占欲を出してやきもちを焼いてたら駄目だ。ユミやクラスの誰かに気付かれたら思いっきり引かれるだろう。
 だから俺もいつも通りでいないと。遊びのキスをしただけで恋に堕ちるな。忘れろ。まだ全然間に合う。この気持ちは恋愛経験が少ない俺の、一時的な錯覚だ。

 ──よし。

「ユミ、昼休み、食堂行って食べない?」

 俺はなるべくいつも通りに、明るく話しかけた。

「お、なら俺も食堂行く」

 マクがユミの隣で顔を上げる。でも当のユミは不自然に笑って「んー。今日は俺、いいや」と首をひねった。

「なら放課後は? 昨日の続き……」

 俺の言葉にユミの眉間がピクリと動いた。

「あっ、あの、昨日の! ゲームの! ほら俺、ユミに負けっぱなしになってるから」

 焦って付け加える俺。
 普段は主語述語なんて関係ない俺達だけど、今日はまずい。しっかりと日本語を話さなくては!
 俺はしつこいくらいに「ゲームな。昨日の続きの」と続けた。

 ユミはちょっと戸惑って、斜め横にいた成瀬を気にする。成瀬はすぐにそれに気づき、ユミと目を合わせると小さく頷いた。
 なんだろう。意味有りげな空気が漂っているように感じるのは気のせいか。

「わりぃ、ユミは今日は、俺と二人だけで遊ぶ約束をしてるんだよ。な、ユミ」

 成瀬は朝みたいにユミの頭に手を置いた。
 こいつ、背が高いせいか人の頭や肩に手を乗せる癖があるけど、今、凄く得意げな顔をしているように見える。
 いや……さっきも今も、俺がやきもちを焼いているからそう見えるだけかもしれない。

「うん……ごめんな、蓮見。また次、な」
「そっか。わかった。また次な」

 また、胸がモヤモヤモヤモヤしていたけれど、ユミに済まなさそうに言われて、俺はすぐに引き下がった。
 でも……「また次」は全然やって来なかった。