えっ。ユミって照れたりするんだ。カスミ草みたいに可憐なイメージでも、どっちかっていうといつも勝ち気な方なのに……なんか、ギャップかわ……。

 って! 待て、俺。今なにを思いかけた? ファーストキスに酔って、正常な判断ができなくなってるんじゃ……我ながらなんてチョロさだ。

「蓮見、ごめんな、俺……」

 ──! か、か、か、かわいい。ユミが可愛い。
 赤い顔をして泣きそうに眉を寄せるユミを初めて見て、俺の胸はまた熱くなってくる。

「い、いや、大丈夫。嫌じゃなかった。気持ち悪くなかった。どっちかっていうと、良かった!」
「……」

 ば、ばか。俺、またもやなにを。
 でも……。

「……そっか。良かった……」

 ユミが、あんまりにもホッとしたように微笑むから。
 ユミが、あんまりにも嬉しそうに笑うから。

「うん。嘘じゃないから」

 なんて言って頭を撫でてしまった。
 そしたらユミ、カスミ草が開くように顔をくしゃっとして笑って、それだけでも可愛いのに。

「……じゃあ、またしよーな」

 って、頭を俺の肩にこてん、と置いた。

 その瞬間、胸の真ん中になにかが「とすん」と刺さった。まずい。俺はこの感覚を知っている。

 これは、幼稚園のとき、ひまわり組の先生が散歩の途中で俺にたんぽぽを手渡してくれたときのあれだ。

 心臓がとくとくと音を立てる。胸がじわじわと熱くなり、血液が全身を駆け巡る。

 どうしよう。どうしよう。俺、なんて単純。本当にチョロすぎる。相手はユミで男だぞ。

 落ち着け、落ち着くんだ──

 けれど心臓の拍動もその熱さも、ユミの家を出るときにも取れなくて、目にも熱が回っているのか、白い霞がユミの回りにかかって見えた。

「蓮見、また明日な」
「おお……」

 帰り際、玄関の外まで見送ってくれたユミは、俺が曲がり角を曲がるまで笑顔で手を振ってくれた。

 ああ、やっぱユミってカスミ草系男子。咲き誇るカスミ草の花束みたいに俺の目を白く霞ませて、帰り道の夕日をいつもより感傷的に見せた。