「ユミ?」
 
 しばらくの()が開いた。

 下ネタはやっぱりまずかったかな。どうしよう。とにかく冗談だよ、って謝って……。

「……蓮見、ホントにいいのか?」
「え? なにが?」

 思ってなかった言葉に、今度は俺がユミを見つめて聞き返す。
 
「……俺……男なんだけど……」

 消え入りそうな小さな声。ユミは弱弱しく肩を落としている。

「……なんだよ今さら。知ってるよ」

 ユミが言いたいこと、ちゃんとわかってる。男同士である俺たちには「普通の付き合い方」は難しいのかもしれない。他人からの目が、全く怖くないわけじゃない。
 けれど俺は、身構えずに思っていることを素直に伝えた。

「俺さ、ユミが初恋なんだ。もちろん両思いっていうのも初めて。だから正直わかんない。この気持ちがどうなるのか、これから俺たちがどこへ向かうのか……けどさ、それはユミが男だからってわけじゃない。俺がまだ、恋愛初心者だからわからないだけだと思うんだ。……だからさ、ユミ、こっち向いて?」

 ユミは俺の言葉に、おそるおそる顔を上げた。まだ怯えるような顔をしている。でも、そんな表情は学校でも見たことがなくて……きっと、成瀬やサキも知らないだろう。


 ユミが、ユミの好きな俺だけに見せる顔。大事にしたい。そして、笑顔に変えてやりたい。

 大きく息を吸い込む。ありったけの思いが届くように、言葉に心を込める。

「ユミ、俺と付き合ってください。これから毎日を俺と過ごして、先のことも一緒に考えて行こ! 俺、ユミと一緒にいたい。ユミと色んな経験したい。わかんないことは、全部ユミと知って行きたい。だから……俺と一緒にいよう!」

 途端に、ユミの顔が夕焼けと同じ色になる。今にも泣き出しそうな、俺にすがるような表情で。

 あー可愛い。可愛い。可愛い。笑顔もいいけど、こういう表情もやっぱり堪らない。結局俺は、ユミのどんな表情も好きなのだ。
 だけど今は、とりあえず安心して笑ってよ、ユミ。

「ユミ」
「ん?」
「好きだよ。大好き。無茶苦茶好き。宇宙一好き。言っても言っても足りないくらい好き!」

 これが、今の俺の嘘偽りない気持ち。だから、声を大にして言える。

 ユミは一瞬キョトン顔。
 それから。
 弾けるように笑った。
 
 ──カスミ草、満開。

 小花が一斉に開いたかのようなユミの笑顔が眩しすぎて、夕日さえ白く霞む。凄い威力だ。

 そして思う。

 オレの青春(アオハル)はユミそのものだ。青でも黒でもなく、ユミ色(まっしろ)だって。

 俺、さっき「先のことはわからない」ってユミには言ったけど、頭の中にはカスミ草の花言葉が浮かんでいた。

 カスミ草の花言葉は「清らかな心、永遠の愛」

 俺の隣を笑顔で歩くユミを見ながら、俺はこの可憐で清らかなカスミ草を、俺のそばで永遠に咲かせ続けようと強く心に誓ったのだった。

  ❁アオハルはカスミ草の色❁
      終わり