柔らかい唇を幾度も重ね、下唇を甘噛みし、ちゅるりと吸う。ユミがねだるように舌でつついてくると、俺も舌を伸ばしてユミの舌を撫でる。そのうち、互いの唾液が同じ温度と粘度で混ざり合って、心も身体も一つになっていく。俺たつ二人、蕩けてキスに溺れていく……。

「……ん、はす、み…ぁ、ん……待って、なんか、冷たい」
「ん? ……いいとこなのに……わ、本当だ。ユミ、ほっぺたから血が出てる!」

 ユミの右側の頬に、赤い血が滲んでいた。俺、頬を強く挟み過ぎた?

「違うって。蓮見の左手だよ。ほら~興奮するから、傷がまた開いたんだろ。これだから恋愛旧石器時代人は」
「うっさい。ユミも同じようなものじゃないか。……ていうか、マジで痛いかも。さすがに二回も傷が開いたらヤバイよな」

 言いながら、また目の前がチカチカして、目の前に暗幕がかかった。

「蓮見!? 蓮見! 大丈夫か……!」
「ユミ……」

 ユミの声が遠退いていく……。

 
***


 結局このあと、ユミに付き添われて病院に行き、四針縫う羽目になった。でもずっとユミが居てくれたから、得した気分だ。
 こういうの、怪我の功名っていうんだっけ? そうだよな。この怪我がユミの気持ちを聞くきっかけを作ってくれたのだから。

 だからこのケガは必然だ! ……ということにしておく。

「あ~。もう日が落ちちゃったな。遅くなってごめんな、ユミ」

 病院から出たら、外はもう夕焼け色だった。
 十一月の夕方の空気は少し冷たくて、俺たちは自然と肩がくっつくくらいに体を寄せて歩いている。

「全然。それより痛む? しばらく不便だな。手伝えることがあればやってやるから、言ってよ」

 ユミが左手をさすってくれる。包帯ごしなのに気持ちいい。それに、顔が近くて幸せ。ユミはやっぱり可愛いし、いい匂いがする。

「うん。まぁ、左手だしなんとかなるよ……あ、でもサキが言ってたよな」
「うん?」

 ユミが猫目をくりくりさせて、俺の言葉の意味を理解しようと見つめてくる。だけどぴんとこないみたいで……。

「誰かやってくれる子いるの? って。ユミ……俺がもしたまったら、やってくれる?」

 恋愛旧石器時代の俺がこんな下ネタを言えるようになるなんて。だけどちょっと意地悪して、頬を紅くするユミを見たいから、にやりと笑って言ってみた。

「……蓮見、マジで人格変わってない?」

 ユミはぴたりと歩みを止め、俺の左手にデコピンならぬ手ピンをした。

「いったあ! ユミ、酷い!」
「調子に乗るからだよ」

 そう言って、ふん、と鼻を鳴らしたけど、そのあとユミは立ち止まったまま顔を下げ、考え込むように黙った。