「えぇ? それで俺を避け始めたのか?  俺、地味に傷ついてたんだけど……しかも奥手は快楽に流されやすいとか、マジで信じちゃったわけ? 一体俺をなんだと……い、いや、反論はでき……」

 蓮見は最初、拍子抜けしたように声を出したけど、最後の方は俺が聞き取れない声でなにかを呟いた。
 
 そうか、俺、蓮見を傷つけていたんだな。そりゃ、人に避けられたらそうなるよな。
 だけどあのとき、俺だって必死だったんだ。

 翌朝「いつも通り、いつも通り」と自分に言い聞かせて学校に行ったら、蓮見は顔を固まらせて俺を見ている。
 挨拶しても目をパッとそらしてさっさと自分の席に行き、俺がいる輪には近寄ろうとさえしなかった。

 不安を訴える俺に、マクやサキは「大丈夫、作戦通り。ユミを意識してる証拠だから」と、徹底的に「ムチ作戦」を遂行するよう動いた。

 俺はとても不安だったけれど、もう動き出してしまった。ここで種明かしをして告白でもしようものなら、蓮見は俺といることに悩んで離れて行くかもしれない。

 蓮見はいい奴だから、あからさまに偏見の目は向けてはこないだろうけど、男友達からの恋心を受け入れられずに距離を取るような、そんな気がした。
 それだけは嫌だ。

 俺が「キスなんかなんでもないことなんだよ」の態度を貫いて、せめて友達としてでもそばにいられるようにしないと。

 だから作戦だけじゃない。俺は自分の動揺を蓮見に知られない為にも、俺の方から蓮見と距離を取るようになったのだ。

 けれど、そうしているうちに蓮見は新顔とつるみ出すし、怪我した蓮見に駆け寄った俺の手を迷惑そうに振り払うし……。
 俺の不安は最高潮を迎えていた。

 そして、そんな俺と蓮見のギクシャク感に成瀬が気づいて「サキと相談しておく」と言っていたのが、今日の体育の前だ。


「流れはこんな感じて……ごめん。避けたりしてホントにごめん! でも、蓮見だって俺が避けたからって、新顔とつるみ出したじゃん。そのうえ、俺のことは気にしなくていいよ、なんてあっさり言うから、俺だって傷ついたんだ! 」
「いやいやいやいや、それおかしいだろ。避けられたらそう言うしかないじゃん」

 そうだよ、おかしいよ。自分でだってそんなのわかってる。だけど、俺、本当に不安で。

「こっちは必死だったんだよ。どうにか蓮見と元どおりになりたいのに、蓮見がどんどん遠くなる気がして。自分のセクシュアリティに気づいたときより悩んだんだから!」

 情けないけど、俺は半泣きなり、必死で蓮見に訴えた。