「ユミって、蓮見のこと好きだよな」

 成瀬にそう言われたのはゴールデンウィークが開けてすぐのことだった。
 学校が始まり、まだ一緒に出かけるほどには仲良くなかった蓮見と久しぶりに会えたのが嬉しくて、俺は蓮見にまとわりついていた。

 エスカレーター式のこの男子校では、小学校から一緒の幼馴染には俺の気持ちがすぐにバレてしまうらしく、成瀬だけじゃなく、マクやスイカもわかってた、って。

 サキに至っては「ユミは俺の内縁の嫁にしたかったたんだけどなぁ。残念」なんて言う始末。
 なるか、この色ボケ。

「うん。前に話した花屋の人が蓮見なんだ」

 俺が打ち明けると、成瀬はポロポロと涙を流し出し、しまいには男泣きに泣いて仲間を引かせた。

「良かった、良かったなあ。ユミ。お前に好きな人ができて……俺、本当に嬉しいよ」

         


 俺が、自分は女の子を本気で好きになれないと気づいたのは中学ニ年生の頃だ。
 今まで女の子をかわいいな、とか普通に思ってきたし、男友達を恋愛対象に見たことなんかなかった。

 ただ、小さい頃から女の子が見るテレビ番組が好きで、出てくるヒーロー役に憧れていた。

 今ならわかるけれど、俺はヒーローになりたかったんじゃなくて、ヒーローに恋をして、ヒーローに愛されるヒロイン役になりたかっんだ。

 初めて付き合った(かのじょ)は申し分ないくらい可愛かった。
 いっつもニコニコしてて、一生懸命に俺を好きだと言ってくれた。だけど、いざ恋人らしいことをしようしてわかった。
 俺は彼女が好きだと思ったんじゃない。こんなふうに、好きな(ひと)の前で素直に愛情を伝えられる女の子が羨ましくて、自分を彼女に投影していたんだ、って。

 だからって俺は、女の子になりたいわけじゃない。ただ、ありのままの俺で、好きになった人に好きだと言いたいだけだ。

 でも、そんなこと、胸を張って言えることじゃない。親や友達が知ったらどう思われるかを考えたら夜も眠れなくて、悩みに悩んだ。
 女の子が恋愛対象じゃないって言っても、まだ本気で好きになった(ひと)もいない。せいぜいタイプの俳優に憧れる程度。
 俺の心はどこに向かうこともできなかった。

 そんなふうに八方塞がりで落ち込んでいた頃だ。祖母に見舞いの花を持っていくために入った花屋で、蓮見桂に出会った。

 当時名前も知らないその人は、どう見ても同い年くらい。なのにエスカレーター式の学校のぬるま湯にいて甘やかされている俺とは違い、真剣に店の仕事をやっていた。

 俺が滞在したのはほんの三十分弱なのに、そのあいだちっともさぼらず、甲斐甲斐しく花に話しかけ、世話をし、花屋の店先で足を止めて通りすぎるだけの客にも丁寧に対応していたのだ。