「この花、他の花みたいにメインでは選ばれないけど、凄く魅力的なんですよ。薔薇とか百合が花の当たり前じゃないし、その当たり前や普通だけがいいってわけじゃない。カスミ草があるから全体が締まるんです。それにほら、こうすると白さに癒されませんか? 嫌な気持ちなんかを浄化してくれます。君、なんだか元気がないみたい……だからこれどうぞ。って。俺、一字一句覚えてる」

 顔がかあぁと熱くなる。花を売っている時、俺はちょっとばかりドリーマーになる。お客様に幸せを売る仕事だと思ってるし、やっぱり花が好きなんだよ。
 花の話になるといくらでも話せる。けど、さすがにこれは公開処刑だ。

「も、やめてユミ……」

 俺はユミの頬から手を離して、両手で顔を覆い直した。

「なんで?  俺、あれで救われたんだよ。みんなとは違うけどそれでもいいんだって思えたし、本当にあのブーケに癒された。それでさ……高校に上がったらいたんだよ。フラワーショップ蓮見の息子が」

 ユミは再び俺の右手を取り、顔を半部出させた。つられて左手もシーツの上に降りる。

「すっごい嬉しかった。すぐに声をかけて名前を聞いて、友達になる努力をした」

 ──蓮見っていうの? 名前は?

 入学式で、瞳を輝かせて名前を聞いてくれたことを思い出す。

「蓮見は全く俺を覚えていなかったけど、全然構わなかったな。一緒にいるだけで楽しかったから。けど、一緒にいる時間が増えるとだんだん欲張りになってきて……。楽しいだけじゃなく、くっつきたい、とか触りたいとか……蓮見と……キスしたい、とか……。それで初めて恋をする、ってことがわかった。今まで俺がその()があったのにわからなかったのは、本気で好きな相手に巡り会えてなかったからだったんだって」

 う……ユミ……どうしよう。俺の顔の火照りがマックス。火を噴きそう。  
 恋。ユミが、俺に、恋を……。本気で好きな相手だと……。

「上がりの皆にはカミングアウトしてたから、成瀬が俺の気持ちに最初に気づいてさ。そしたら他のみんなも協力してやる、って言い出して……サキが……蓮見はその……絶対に恋愛経験皆無だから、キスのひとつでもすれば簡単に意識してくるはずだ、って……」
「あいつ……」

 あんのゲス野郎……。他の奴らも結束が固いとか、上がり組の絆とかだけじゃないだろ。絶対に面白がってる!

「それで俺、あの日にサキの指示通りに、蓮見に仕掛けたんだ」

 ユミはきまりが悪そうに小さくなって、声もまた小さくなって、あの日のことを話し始めた。