「あれって、ウソ…?」
「あれは、ウソだよ……」

 二人の声が重なる。

「ちょっと待って。どう言うこと? じゃあ、俺とやったのはなんなんだ?」

 混乱する。え? え? 理解するだけの情報がない。意味がわからない。

「ああぁー、もう、終わった……」

 ユミの上半身が、ベッドに座ったままの俺の膝辺りに崩れ落ちた。それから、ユミは顔を半分俺に向けると、おそるおそる視線を合わせる。悲しいような、懇願するような、そんな目。
 キスしたあとのときと同じ目に、俺の心臓はトクトクと騒ぎ出した。

「ユミ……?」

 右手が自然にユミの頬に伸びる。ユミは俺の手を受け入れ、小さな声で話し出した。

「……サキにキスに誘われたことがあるのはホント。あいつ、気持ちいいなら相手は誰でもいいから。一回してみないか? って中学のときに言われて。でも俺、そんな気にはなれなくてやってない」

 サキ……めちゃモテるもんな。薔薇をしょってるみたいな正統派イケメンで、男女問わず手広く付き合ってると聞いている。だからって幼馴染を誘うなよ。

「それでな……」

 ユミは頬にある俺の手に自分の手を重ねた。手のひらは暖かいのに、指先が冷たい。 

 ユミ、緊張してるのか……?

「俺、中二の時に彼女ができたんだけど。本当にかわいいって思うのに、なにかが違う、ってずっと思ってた。蓮見には嘘ついちゃったけど、俺、彼女とキスしようとして、凄い違和感を感じて……本当はできなかったんだ。……どうしてかわかる?」

 ユミの胸中を表すような切な気な表情に、俺の中に一つの答え候補が上がったけれど確信はない。
 俺はなにも言わずにユミの告白を待った。

「……俺の恋愛対象は女の子じゃなかったんだ」

 ユミの言葉が宙にぽかんと浮かぶ。予測は当たったけれど、やはり答え方がわからない。
 聞こえたよ、と言う意味の相槌しかできなかった。

「俺、そんな自分にショックを受けて、結構悩んでたの。けどそんなとき、入院中のばあちゃんへの花束を買いに母親と寄った花屋でさ、すっごい一生懸命花の説明してくれた店員さんがいて」

 ユミが俺を見て口角を上げる。

「アイドルの曲の歌詞まんまでさ。いろんな花があるけど、どれも一生懸命咲いてるんです。持って生まれた色と香りを最大限生かせるように、みんな頑張って開くんですよ、とかって」
「……」

 そ、それは……そんな夢見がち話をするこの近くの花屋の店員は、俺だよな…?

 恥ずかしくなり、包帯の左手で顔を覆った。ユミはくす、と笑って話を続ける。

「店員さんが、どう見てもそこの息子で俺と同い年くらいだ。なのにばあちゃんのイメージを話したら、あっという間に綺麗な花束を作ってくれて。それからさ、切り余った小さい白い花に同じのを少し足して、ミニチュアみたいな花束を作って俺にくれたんだ」

 そう、うちの店は母ちゃんの方針で、買ってもらった花の種類でオマケをつけて、お客様へのプレゼントにしてる。
 というか、俺たち前に会ってたの? 全然覚えてないんだけど……。