なんの話……? ユミのこと、好き?
成瀬が?
 もうひと押しって、ユミも成瀬にその気になりかけてるってこと?

「ああ、だから……」

 だから俺とも距離を取り始めたのかも。あの翌日、確かにユミと成瀬の二人で放課後の約束をしていたもんな。

 あの日、仲の良い成瀬と遊んで「俺達やっばり気が合うな」とか言った流れで「蓮見とキスしてみたけど最悪だった。だから成瀬がやり直して」「いいぜ、ユミ、来いよ」ってなって。
 そらから、ちゅううぅ~~。

 ……ああああ。そうなのか?  ユミ、そうなんだな? 成瀬は背が高くてかっこいいし、ヒマワリみたいに明るいいい男だ。成瀬に「好きだ」と押されれば、ユミが絆されても仕方ない。

「なんだ、そう言うことか……」

 勝手な妄想なのに、いかにもありそうに思えて虚しさが胸を襲う。
 俺はトボトボと体育館ヘ向かい、遅刻したのを先生に怒鳴られてしまった。



 ──いてぇ。
 左手だから大丈夫だろうとバスケに参加して走っていたら、手がズキンズキンと痛み出した。

「蓮見、血が出てるぞ!」

 新顔のクラスメートに言われて左手を見てみると、包帯が深紅のバラみたいな紅で染まり、血がしたたっている。

 それを見たら急に頭がクラクラとして、目の前で小さな星が光り出した。紛れもなく貧血だ。

 あー、これは倒れるかも、と思った瞬間。俺の体を支えた人がいる。
 随分細っこくて頼りない気がするけど、先生?

「蓮見、大丈夫か!」
「ユミ……?」

 え、嘘だろ……俺、ユミに抱き抱えられている。
 ああ、なんかいい匂いがするなぁ。あの日と同じ、爽やかなシャンプーの香りだ。

 意識が飛びそうだってのにそんな呑気なことを考えて、ユミの体温の暖かさに心地良さを感じながら、俺は意識を手放した。



 次に目を開けると、保健室のベッドの上にいた。天井とユミの心配そうな顔が目に入る。
 左手を上げてみると、包帯がきれいに巻き直されていた。

「目、覚めた? 気分はどうだ? もう放課後だけど、起きられる?」
「放課後? えー。じゃあ俺、二時間近く寝てたわけ?」

 のそのそと上半身を起こす。ユミを見直すと既に制服姿だった。

「あ……俺の着替えと鞄も持ってきてくれたんだ。ありがとな」

 ベッドの足元に俺の荷物が積んである。

「サキと成瀬が持ってきてくれた。二人とも少しのあいだここにいたんだけど、先に帰るって。保健の先生も職員会議があるって、さっき出て行ったところで、蓮見の目が覚めたら帰ってくれ、って言ってた」

 サキと成瀬、と聞いてさっきのニ人の会話を思い出してしまう。