こんなの、青春期の熱病みたいなもん。

 ユミを一人占めしたい。
 ユミを他の誰にも触らせたくない。
 ユミとキスするのは俺だけでありたい。その先の経験もユミとしたい。
 なんて。

 恋愛経験がない男が恋をすると、こうも気持ち悪くなれるものか。相手の気持ちがちっとも自分にないのに独占欲がおぞましい。
 ニュースで「恋愛のもつれ」とかで犯人になるのはほぼ男だ。男とは思いつめる生き物なのか。
 
「やばすぎやばすぎ。俺は闇の手の者になってはいけない」
「ちょっと、桂。あんた最近独り言多すぎ。病んでるの? 闇の手の者って……まさか学校でいじめらてるとかじゃないでしょうね」

 早朝五時から家業の花屋の手伝いをしている俺。母親がキーパー(花の冷蔵庫)を掃除しながら顔を出した。

「いじめられてないけど病んではいるかも」
「えっ、やめてよ。せっかく青春を楽しめるように大学附属に入れてやったのに」

 うちはたいして金持ちでもないのに、一人息子を大学附属の私立に通わせてくれている。俺が将来花屋を次ぐのは決定だから高卒でも良かったのに、花屋だからこそ学歴持っとけ、学生生活楽しんどけ、って言ってくれた。

 花屋って出会いがないから、少しでも将来有望な人材と繋がりを持っておけって意味もあるのだろうが、ごめんな、母ちゃん。
 俺、このまま行くと、地味な学生生活になりそう。それで、大学を卒業する頃にはユミや上がりの生徒達には存在を忘れられているかもしれない……。

 それでもユミとのあの一度のキスを胸で大事に抱えて、ユミを柱の影から見つめていたりして、彼女もできないまま社会人になるのかも。

 ブルブルブル。俺は頭を大きく振った。

 いや、駄目だって。ストーキングとか、絶対に駄目だぞ、俺。怖い怖い。このままじゃ本当に闇の手の者になってしまう。なんとか回避しないと……。

「ちょっと桂、なにやってんの!?」
「ぁう? ……おわっ」

 母ちゃんが叫びながら指差した先には、俺の血だらけの手。
 ピンポンマムの茎を切り揃えている時に、ぼんやりしていてハサミで左の手を思いっきり切り込んでいた。

「病院に先に行ったら?」

 母ちゃんにきつく包帯を巻かれる。

「いてっ……大丈夫だよ。行くなら放課後にする」

 どうせ放課後暇だし……自分で言って、寂しくなってしまった。


***


「よお、蓮見。なんだ、手ェどうした」

 ユミを含む上がりの奴らとはちょっと距離を置くようにはなったけれど、互いに軽口は言い合ったりする。
 成瀬なんかは今日も当たり前みたいに肩に乗ってくるし。

「ドジやったの? 左手で良かったな。ハハハ。あー、でも夜は両手を使いたいよな。それとも誰かやってくれる子、いたりして?」

 サキなどは下ネタを含む発言を笑いながら言ってくるし。