マクだって。
 サキだって。
 成瀬だって。
 スイカだって。
 ユミだって……ただ一緒にいて、楽しくて気が合う奴といるだけ。

 ユミが俺と距離を取り始めたのは、あのキスの翌日からだ。やっぱり変に意識しすぎている俺に気づいて引いたのかもしれない。
「遊びにマジになる奴、つまんねぇ。もう離れとくか」って、きっとそんな感じなんだ……。

 俺達が移動先の教室の廊下の前で団子になったまま喋っていると、後ろからユミのいる「上がり」の輪がやって来た。
 新顔の奴らは気まずそうに教室に入る。こいつらはこいつらで気にしすぎだとは思うけど、それは今まで俺が上がりの中に入っていたからそう思うのかもしれない。俺もユミが気まぐれに声をかけて来なければ、あの中の一人だったのだろう。

 上がりは……なんと言うか、花束に例えるとメインの花だ。
 華やかで都会的。小学校からいる生徒は特に、家柄が良いのが多い。男子校だからそれでマウント取りは無いけれど、スクールカーストに置いてみれば絶対に上位人だ。
 ホント、俺なんか下位も下位だもんな。なんたって、筋金入りのモブキャラだから。

「蓮見、先に行ってたのか? 誘うつもりだったのに……」

 カスミ草のように可憐なユミの横に良くも平気で並んでいたよな、とぼんやりユミを見ていた俺に、ユミ本人が声をかけた。ちょっとだけ気まずそうな顔を向けてくる。

 あ……気ぃ、使わせちゃったかも。新顔の奴らは「気分屋」なんて言ったけど、ユミは少し人見知りがあるだけで、仲良くなった相手にはとことん優しいし、仲間達には結構気を配っているのだ。
 でも今は、それが俺にみじめさを与える。

「うん、友達になろうぜぃ、みたいに声かけられた。だからこれからはあいつらともツルもうかな、って思ってる。だからユミ、俺のことはもうあんま気にしなくてもいいよ」

 みじめさを気づかれたくなくて、大げさに明るく、ニカッと笑顔なんか作っておどけてみる。
 そうしたら一瞬、ユミが泣きそうな顔になった気がしたけど、本当に一瞬で。
 すぐに「ふーん」といつものトーンで言って俺に背中を向け、山瀬達のところに入って行った。

「はあぁぁぁぁ」

 ユミが去った廊下。始業チャイムの音に溜息を混ぜて吐いた。
 つら~~。なんなんだ、このどこにも行けない窮屈な感じ。もう、ユミとは前みたいには戻れないんだろうか……でも俺は、ユミと前みたいに戻りたいと本当に思っているのか? 前みたいに馬鹿を言い合う友達に戻りたい? 本当に?