「――う、ぐぅ」

 馬車が横転したらしい。
 気が付くと、ユスランたちは壁に全身を打ち付けていた。

「み、みんな……無事か?」
「ええ、わたしは大丈夫……」
「あたしも問題ない、ってか、どうなってんの?」

 ユスランたちは互いの無事を確認すると、幌を捲って馬車の外を覗いてみる。
 そして見た。

「な、なんだ彼らは……?」

 小汚い格好の男たちが、交易馬車を取り囲んでいる。
 彼らはいったい何者なのか。というよりも、どうして自分たちはこんな目に遭っているのだろうか。

「ねえ、ユスラン。早く逃げましょう……!」
「そうだぜ、あたしらだけじゃ、あの数は相手にできねえよ」
「……そ、そうだね。見つからないように慎重に……」

 我が身に降りかかった火の粉に対し、ユスランたちは頭が混乱状態にあった。
 しかし理解できることはある。とにかく逃げなければならない。そう思った。

「ひっ」

 馬車の奥へと引っ込み、御者台へと続く逆側の幌に手をかけ、そっと捲ってみる。そこには首の無い御者の胴体が転がっていた。

「お? 中にまだ居るぜ!」
「何人だ」
「えっと……三人だな。恰好からして、恐らく冒険者だろ」
「油断するなよ」
「馬鹿、誰に物言ってんだよ」

 目が合い、ユスランはすぐに幌を閉める。

「ねえっ、どうなってんのよ!」
「ユスラン、早く外に出ないと……!」

 カヤッタとフージョの声が耳に届くが、全く頭の中に入ってこない。

「は、はは……」

 恐らく、僕の冒険は今日でお終いだ。
 ユスランは確信する。

 こんなことになると分かっていれば、彼らを追いかけてモルサル街を出なければよかった。
 いや、そもそもの話として、冒険者になんかならなければ……。

 後悔しても、もう遅い。

「ねえっ、ユスランってば!」
「おい、誰か入ってきたんだけど!」
「ははは、はは……」

 ユスランは目を瞑り、ガタガタと体を震わせながら、ただただ黙って時が過ぎるのを待ち続けるのだった。