隙を突くのは得意でも、その逆は経験が無いのだろうか。
 護衛を受けた冒険者パーティーの首を獲ったまではよかったが、反撃されるとは思っていなかったのかもしれない。

 ロザリーの火炎魔法に驚愕し、足を止める奴らの間を縫っていくように走り抜ける。
 両手に持った短剣は、一撃必殺狙いということで、すれ違いざまに喉首を斬り抜き続けた。

 一人、もう一人と、立ち上がって俺の背を追いかけようとするが、前部分が残った馬車に乗ったままのロザリーが、次から次に呪文を唱え、小さな火の玉を投げていく。

 馬車の周辺は、火の海だ。
 奴らに逃げ場はないし、もちろん逃がすつもりもない。

 最後の一人を仕留めたあと、ようやく俺は足を止める。
 そしてロザリーの許へと引き返す。

「援護射撃、助かったよ」
「当然のことをしたまでよ」

 言われて、俺は思わず苦笑する。
 決して笑わないのは、そういう性格なのだろうか。

「さて、残ったのは……」

 ロザリーと共に視線を戻し、御者の姿を瞳に映す。
 俺たちの他に生き残ったのは彼だけだ。

「た、助かりました! 本当にありがとうございますっ!」

 全てが終わったのを見届けたあと、御者は両手を合わせて拝んできた。
 その姿を見て、それからロザリーと俺は顔を見合わせる。どちらも呆れ顔だ。

「……違うだろ」
「へっ?」
「お前もこいつらの仲間だろ。しらばっくれても無駄だ」
「な……何のことでしょうか? 言ってることの意味がよく分からないんですが……」

 あくまでも、白を切るつもりのようだ。
 だとすれば、容赦する必要もあるまい。

「ロザリー」
「ええ」

 彼女の名前を呼ぶと、待っていましたと言わんばかりに杖を振る。
 そして御者のすぐ真横に火の玉を撃ち込んだ。

「ひっ、ひいっ!」
「最初に魔物が出たと声を上げたのは、どこのどいつだ?」

 指摘すると、御者は体を震わせながらも手を挙げる。

「リジン、これも処分していいの?」
「そうだな……」
「お! お助けを! 申し訳ございませんっ!! どうか許してくださいいいっ!!」

 地面に額を擦り付け、御者が許しを請う。
 話を聞くと、どうやらモルサル街を拠点に活動する新米冒険者パーティーを中心に個人依頼を発注し、リンツ街へと向かう道中で金品や装備品を根こそぎ奪っていたらしい。

 とりあえず、殺すつもりはない。
 一人だけでも生き残りがいた方が、ギルドにも話を通し易くなるだろう。
 リンツ街は小さな町だが、当然ギルドもある。そこで引き渡すことにしよう。

「ところで……ロザリー、全部はやり過ぎたな」
「全部? 何のことかしら」
「あれを見ろ」

 そう言って、視線を移す。
 その先に映るのは、機能不全となった交易馬車だ。

 合計で三台もあったのに、その全てが壊れている。ロザリーが放った火炎魔法が原因なのは明らかだ。
 奴らを返り討ちにすることができただけでも有り難いが、どうせなら馬車も無事であってほしかった。

「……問題ないわね。ほら、わたしたちには足があるでしょう?」
「言いたいことはそれだけか」
「ええ、それだけよ」

 何事もなかったかのように、ロザリーは明後日の方角を見る。
 その横顔を眺めながら、俺は肩を竦めた。

 結局、俺たちは残りの道程を徒歩で移動することになった。