ローテルハルク城から馬車を走らせること二時間、遠くまで続く森林地帯が顔を見せる。その中を迷わず進んで行くと、やがて名も無き小さな村に到着した。
元々は、この場所まで飛行魔法を使って一気に飛んでいこうと考えていた。
でも、トロアに転生してからまだ一度も発動したことのない魔法だ。
もし、空を飛んで移動している最中に効果が切れてしまったら……。
そう思うと恐ろしくて、とてもじゃないけど使う気にはなれなかった。
暇を見つけたときに飛ぶ練習をして、その感覚に慣れる必要があるだろう。
というわけで、今回は陸を行くことにした。
「ここが例の村ね……」
ゲルモが拠点にしているのは、この村で間違いないだろう。
馬車に揺られて村に到着すると、あたしは御者にここで待機しておくように命じた。
復路の足も必要だからね。
「――レミーゼ様? レミーゼ様ではございませんか!」
とここで、中年の男性があたしの姿に気付いて声をかけてきた。
「なんと! 村までお越しいただけるとは……! おい、みんな! レミーゼ様が来てくださったぞ!」
レミーゼがわざわざ会いに来てくれたと勘違いしているのだろう。
その男性は村の人たちに声をかける。
すると、ぞろぞろと村の入口に集まってきた。
「結構、人が居るのね」
「へい! 人手は幾らあっても困りませんからね!」
……人手? よく分からないけど、どうやら多いに越したことはないようだ。
「ところで、ゲルモは……」
「へい? 何でしょうか?」
ああ、この馴れ馴れしい男がゲルモ本人だったのか。
パッと見た感じだと、村の人たちとの関係は良好そうだ。
「地下牢から連れ出した罪人が居るでしょう? あの二人はどこにいるの」
「はて、地下牢の? ……ああ、お城のでございますね! はいはい、もちろんおりますとも! どうぞこちらへ!」
アンとドゥがこの村に居るのか訊ねると、ゲルモは何の疑問も持たずに村の奥へと案内してくれた。
連れて行かれた場所には、大きくて頑丈そうな荷馬車があった。
「あ奴らでしたら、他の罪人とまとめてこの中に押し込んでおります!」
そう言ってゲルモは幌の中を見せる。そこには数名ほどが閉じ込められていた。
馬車の中には鉄格子が嵌められていて、自由に外へと出ることのできない造りになっているようだ。
「ふうん、馬車が牢になっているのね? それにしても随分と物騒な見た目をしているわね……」
「へい! 私が運ぶ罪人どもは気性が荒いですからね! もしもに備えて、万全を期しております!」
大事な商品に脱走されたら困るもんね。
そんなことになれば、きっとレミーゼにどやされるはずだ。
……まあ、そのレミーゼも、もう居ないんだけど。
罪人たちのほとんどは気性が荒く、隷属魔法にかけることもままならないらしい。それは地下牢でオットンから聞いた話と相違なかった。
そのままの状態でも、出荷することはできる。
しかし、万が一にもレミーゼの身に何かあったら大変だ。出荷した罪人がレミーゼに怪我をさせたとなれば、取り返しがつかないことになるだろう。
だからこそ、そういった類の罪人たちを、ゲルモは回収、再回収し、己の手で処理するようにしていた。
「つまりアレね? あたしの手に負えない罪人は、貴方たちが話し合った上で、勝手に処分する決まりになってたってわけね?」
「へい、その通りです! ……ん? レミーゼ様もご存じのはずですが?」
「ええ、もちろん知っているわ。レミーゼ本人はね」
鉄格子の向こう側……罪人の中には、アンとドゥの姿があった。
二人はレミーゼが助けに来てくれたと勘違いしたのだろう。目が合うと一瞬喜ぶような素振りを見せた。でも、あたしとゲルモの話す内容を耳にして、そうではないことを理解して表情が暗くなる。
そんな顔はしないで。すぐにそこから出してあげるから。
「――【開錠】」
あたしは【開錠】を発動して鉄格子の鍵を開ける。
それを見たゲルモは、驚いた様子で声を上げた。
「あ? ……ちょ、レミーゼ様? 何故、鍵を……!」
「悪いけど、あんたとの取引は今日このときを以っておしまいにするわ」
「……は? はっ? いやいや、何故でございますか! これはレミーゼ様のために行っていることなんですよ? だというのに取引を終了するなど――」
「【拘束/土縄】」
「うぐあっ!」
抗議するゲルモを対象に、あたしは一切躊躇うことなく、拘束魔法を放った。
すると、ゲルモは地面から伸びた土縄に手足を拘束されてしまい、這いつくばる形になる。その姿を見下ろしながら、あたしは一言、淡々と口にする。
「拒否権はないから」
元々は、この場所まで飛行魔法を使って一気に飛んでいこうと考えていた。
でも、トロアに転生してからまだ一度も発動したことのない魔法だ。
もし、空を飛んで移動している最中に効果が切れてしまったら……。
そう思うと恐ろしくて、とてもじゃないけど使う気にはなれなかった。
暇を見つけたときに飛ぶ練習をして、その感覚に慣れる必要があるだろう。
というわけで、今回は陸を行くことにした。
「ここが例の村ね……」
ゲルモが拠点にしているのは、この村で間違いないだろう。
馬車に揺られて村に到着すると、あたしは御者にここで待機しておくように命じた。
復路の足も必要だからね。
「――レミーゼ様? レミーゼ様ではございませんか!」
とここで、中年の男性があたしの姿に気付いて声をかけてきた。
「なんと! 村までお越しいただけるとは……! おい、みんな! レミーゼ様が来てくださったぞ!」
レミーゼがわざわざ会いに来てくれたと勘違いしているのだろう。
その男性は村の人たちに声をかける。
すると、ぞろぞろと村の入口に集まってきた。
「結構、人が居るのね」
「へい! 人手は幾らあっても困りませんからね!」
……人手? よく分からないけど、どうやら多いに越したことはないようだ。
「ところで、ゲルモは……」
「へい? 何でしょうか?」
ああ、この馴れ馴れしい男がゲルモ本人だったのか。
パッと見た感じだと、村の人たちとの関係は良好そうだ。
「地下牢から連れ出した罪人が居るでしょう? あの二人はどこにいるの」
「はて、地下牢の? ……ああ、お城のでございますね! はいはい、もちろんおりますとも! どうぞこちらへ!」
アンとドゥがこの村に居るのか訊ねると、ゲルモは何の疑問も持たずに村の奥へと案内してくれた。
連れて行かれた場所には、大きくて頑丈そうな荷馬車があった。
「あ奴らでしたら、他の罪人とまとめてこの中に押し込んでおります!」
そう言ってゲルモは幌の中を見せる。そこには数名ほどが閉じ込められていた。
馬車の中には鉄格子が嵌められていて、自由に外へと出ることのできない造りになっているようだ。
「ふうん、馬車が牢になっているのね? それにしても随分と物騒な見た目をしているわね……」
「へい! 私が運ぶ罪人どもは気性が荒いですからね! もしもに備えて、万全を期しております!」
大事な商品に脱走されたら困るもんね。
そんなことになれば、きっとレミーゼにどやされるはずだ。
……まあ、そのレミーゼも、もう居ないんだけど。
罪人たちのほとんどは気性が荒く、隷属魔法にかけることもままならないらしい。それは地下牢でオットンから聞いた話と相違なかった。
そのままの状態でも、出荷することはできる。
しかし、万が一にもレミーゼの身に何かあったら大変だ。出荷した罪人がレミーゼに怪我をさせたとなれば、取り返しがつかないことになるだろう。
だからこそ、そういった類の罪人たちを、ゲルモは回収、再回収し、己の手で処理するようにしていた。
「つまりアレね? あたしの手に負えない罪人は、貴方たちが話し合った上で、勝手に処分する決まりになってたってわけね?」
「へい、その通りです! ……ん? レミーゼ様もご存じのはずですが?」
「ええ、もちろん知っているわ。レミーゼ本人はね」
鉄格子の向こう側……罪人の中には、アンとドゥの姿があった。
二人はレミーゼが助けに来てくれたと勘違いしたのだろう。目が合うと一瞬喜ぶような素振りを見せた。でも、あたしとゲルモの話す内容を耳にして、そうではないことを理解して表情が暗くなる。
そんな顔はしないで。すぐにそこから出してあげるから。
「――【開錠】」
あたしは【開錠】を発動して鉄格子の鍵を開ける。
それを見たゲルモは、驚いた様子で声を上げた。
「あ? ……ちょ、レミーゼ様? 何故、鍵を……!」
「悪いけど、あんたとの取引は今日このときを以っておしまいにするわ」
「……は? はっ? いやいや、何故でございますか! これはレミーゼ様のために行っていることなんですよ? だというのに取引を終了するなど――」
「【拘束/土縄】」
「うぐあっ!」
抗議するゲルモを対象に、あたしは一切躊躇うことなく、拘束魔法を放った。
すると、ゲルモは地面から伸びた土縄に手足を拘束されてしまい、這いつくばる形になる。その姿を見下ろしながら、あたしは一言、淡々と口にする。
「拒否権はないから」