やっと、ボクらは再会できた。

「約束、覚えてくれてたんだ?」
「もちろんだよ! 元気だった?」
「うん。好美さんは、今、どこに住んでるの?」
「あの時、引っ越したまま、今も名古屋にいるよ。遠いから、今日はお父さんに車でここまでおくってもらっちゃった。豊樹くんは、ミュージシャンになるって、あの時言ってたけど、今も目指してるの?」
「うん。『tom』っていう名前で、SNSで公開したり、ソロでライブしたりしてる」
「待って! 『tom』って、SNSでかなり話題になってるよね! あれって、豊樹くんだったの?」
 ボクの活動を好美さんが知ってくれているなんて。
「うん。知ってくれてて、嬉しい。去年オーディションで最終選考に残ってさ。大学に無事に入れて、本格的に東京で活動すれば、メジャーデビューできるかもしれないから、今、必死に受験勉強を頑張ってる」
「すごい!」

「好美さんは、今もアナウンサーを目指してるの?」
「うん。今はそのために、豊樹くんと同じように受験勉強の真っ最中」
「じゃあ、お互い頑張ろう」
「うん」

 好美さんの横顔を見ていると、昔のようにボクは幸せな気持ちになれる。
 好美さんは、名古屋市の有名な私立女子高生になっていた。大垣市に住んでいるボクからすれば、名古屋はそこまで遠くない。子どもの頃は、あまりにも遠いと感じたが、今は違う。電車に乗れば、40分くらいで着く。

「連絡先を交換したいな、……好美さんが迷惑じゃなかったら」
「いいよ。豊樹くんも、いいの? カノジョさんとかいないの?」
「いないよ。好美さんは?」
「いない」
「ホント? ホントにホント?」
「もう、何よ。いないって、ホントに」
 ボクは好美さんにカレシがいないのを知って、つい、テンションが上がる。

「それ、何を書いてるの?」
 好美さんは、ボクが持っていたノートを指差して言う。
「思いついた歌詞とか、フレーズをすぐメモできるように、いつもこのノートを持ち歩いてる」
「さすがだね。豊樹くんがつくった曲ってSNSを開いたら、いつでも聴けるの?」
「うん。でも、せっかくだから好美さんのために新しく曲をつくりたいな」
「昔の約束、覚えてくれてたんだ! いいの?」
「うん。だから、また、会いたいな。連絡してもいい?」
「待ってる」

 夢のような再会の時間は、あっという間に終わった。
 日が暮れ、暗くなるのを心配したのか、好美さんのお父さんは早めに車で迎えに来た。

「会えてよかった」
「こっちこそ、ありがとう」
「絶対連絡するな」
「うん! またね、バイバイ」
「バイバイ」
 そして、手を振ると好美さんは車に向かって走り、助手席に乗り込んだ。

「バイバイ」とお互い手を振って、別れるなんて、恋人みたいで、ニヤニヤしてしまう。
 好美さんのことを頭で何度も思い浮かべながら、ボクは自宅に帰った。