ガタガタと荷馬車に揺られること数十分。
ガタンと大きく揺れる馬車は、はっきり言って乗り心地最悪だ。けれども、不規則に跳ねる荷台は、なんだか徐々に俺を楽しい気分にさせる。
不安定な荷台の中で立ち上がってバランスを取って遊ぶ。『やめなよ、危ないよ』と、ユナがうるさいが無視した。そうやって時間を潰していれば、街に到着したらしい。動きを止めた馬車に、ユナと顔を見合わせる。
耳をすませて、外の様子を窺う。なにやらガヤガヤと騒がしい。手を伸ばして、そっと布を捲ってみる。どうやら街の入口に到着したようで、賑やかな声が聞こえてくる。周りに騎士の姿が見えないことを入念に確認して、そっと荷馬車から降りてみる。ユナも続く。
こそこそと様子を窺えば、騎士たちは馬をおりてなにやら話し込んでいる。巡回に同行したことがないから詳しいことは知らないが、街の見回りだけでなく、困っている住民の声を聞いたりもしているらしい。現に、騎士団一行を見て、周りに人が集まりつつある。
ちょうど良い。集まってきた人混みに紛れるように、素早く中心に突っ込んでいく。慌てたようにユナもついてくる。そうして人混みの中をしばらく進めば、特に怪しまれることもなく街に入り込むことに成功した。
「やったな! 猫」
『もー。ボク知らないぞ。怒られるってばぁ』
いまだに文句を言っている猫を引き連れて、俺は久しぶりに訪れる街にテンションを上げた。
たまに訪れることはあるものの、滅多に連れてきてはもらえない。おまけにオリビアや他の騎士なんかがベッタリだから、こうやって自由に動きまわるのは初めてだ。
さすが中心街とあって、石畳の広場の中央には噴水が据えられている。結構きれいで大きな街だ。この広場を中心に、四方に道が伸びている。どこも店が立ち並んでおり、活気に満ちている。ぴょんぴょん飛び跳ねる俺は、猫を振り返る。
「猫! あっち見に行こう!」
『魔獣探しに来たんじゃなかったの?』
「いいから行こう」
ぶっちゃけ街が楽しくて、俺の頭からは魔獣のことなんてすっぽ抜けてしまう。そもそもオリビアが前に言っていた通り、こんな街中にでっかい魔獣なんて出てこないだろう。たとえ出てきたとしても、今はエヴァンズ家の騎士たちがいる。俺がペットにする前に、彼らによって討伐されてしまう。
肩にかけたバッグの中には、俺がこっそり貯めていたお小遣いがある。主にお父様から貰ったものだ。貴族家の次男だから自分で買い物することなんて滅多にないが、お父様はなにかとお小遣いをくれる。多分、俺に硬貨を渡すと大袈裟なくらい喜ぶから。それを見るのが楽しくて渡してくるのだろう。
使い道はあまりないが、硬貨を集めるのは楽しい。一種のコレクションだ。普段は床でお昼寝するユナの周りに硬貨をひたすら並べて遊んだりしている。兄上やオリビアに見つかると「また変な遊びをして」と嫌な顔をされるのだ。
それが、本日はきちんと使えるチャンスである。ずっと自分で買い物してみたかった。オリビアはたまに街へ買い物に行っているが、俺のことは連れて行ってくれない。今の俺は、正真正銘、自由であった。
「猫。なにか買うか?」
『ボクはいいよ』
ノリの悪い猫を引き連れて、通りをゆっくり歩く。全部が物珍しくて、忙しなく視線を動かす俺の足元に、ぴたりと猫が寄り添ってくる。
古着を売っている店に果物屋、日用品はもちろん、ほとんどの物はこの通りで揃ってしまうだろうというくらいに店が立ち並んでいる。向こうのほうには飲み物を売っている店もある。
目移りする俺は、ふらふらと先へ進む。
途中で騎士とすれ違うたびに、帽子を深く被り直して顔を逸らす。いつもと違って平民っぽい服装だから、顔を見られさえしなければ大丈夫だろう。妙に察しの良いオリビアもいないし。
「あれ食べよう! 猫もいるか?」
『ボクはいいよー』
遠慮する猫に構わず、俺はひとつの店に目をつけた。なんか焼き菓子っぽいものを売っている店である。うちの屋敷では出てこないお菓子だ。ファストフード的なものだろう。
「こんちは! それひとつください!」
「はーい! ひとつね」
駆け寄って注文すれば、すぐに用意してくれる。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
受け取った焼き立てお菓子は、なんかマドレーヌみたいな感じである。用意していた硬貨を渡せば、初めての買い物完了である。
「買えたぞ、猫」
ドヤ顔でユナに報告すれば『あー、はいはい。よかったね』と、なんともやる気のない返事がある。
まだ温かい焼き菓子をもぐもぐ頬張って、適当に周囲を見渡す。さすが大きな街というだけあって人が多い。でっかい魔獣は見当たらない。
「仕方がない。ちっちゃい魔獣でもいいや。なんか捕まえよう」
『そんな適当な』
時には臨機応変も大事である。焼き菓子を少しちぎって、猫の口元へと差し出してやる。ぺろっと食べてしまうユナは、呑気に毛繕いをしている。
『ちょっと散歩して、飽きたら帰ろう。オリビアが心配しているよ』
「ダメ! 魔獣捕まえてから帰る」
『えぇー? 嫌だよ。こんな街中にいるわけないって』
そんなの探してみないとわからないだろ。
俺は新しいペットを見つけて、オリビアを見返したいのだ。ふんっと気合いを入れる俺の足元で、ユナはやる気なさそうにくわぁっと欠伸をした。
ガタンと大きく揺れる馬車は、はっきり言って乗り心地最悪だ。けれども、不規則に跳ねる荷台は、なんだか徐々に俺を楽しい気分にさせる。
不安定な荷台の中で立ち上がってバランスを取って遊ぶ。『やめなよ、危ないよ』と、ユナがうるさいが無視した。そうやって時間を潰していれば、街に到着したらしい。動きを止めた馬車に、ユナと顔を見合わせる。
耳をすませて、外の様子を窺う。なにやらガヤガヤと騒がしい。手を伸ばして、そっと布を捲ってみる。どうやら街の入口に到着したようで、賑やかな声が聞こえてくる。周りに騎士の姿が見えないことを入念に確認して、そっと荷馬車から降りてみる。ユナも続く。
こそこそと様子を窺えば、騎士たちは馬をおりてなにやら話し込んでいる。巡回に同行したことがないから詳しいことは知らないが、街の見回りだけでなく、困っている住民の声を聞いたりもしているらしい。現に、騎士団一行を見て、周りに人が集まりつつある。
ちょうど良い。集まってきた人混みに紛れるように、素早く中心に突っ込んでいく。慌てたようにユナもついてくる。そうして人混みの中をしばらく進めば、特に怪しまれることもなく街に入り込むことに成功した。
「やったな! 猫」
『もー。ボク知らないぞ。怒られるってばぁ』
いまだに文句を言っている猫を引き連れて、俺は久しぶりに訪れる街にテンションを上げた。
たまに訪れることはあるものの、滅多に連れてきてはもらえない。おまけにオリビアや他の騎士なんかがベッタリだから、こうやって自由に動きまわるのは初めてだ。
さすが中心街とあって、石畳の広場の中央には噴水が据えられている。結構きれいで大きな街だ。この広場を中心に、四方に道が伸びている。どこも店が立ち並んでおり、活気に満ちている。ぴょんぴょん飛び跳ねる俺は、猫を振り返る。
「猫! あっち見に行こう!」
『魔獣探しに来たんじゃなかったの?』
「いいから行こう」
ぶっちゃけ街が楽しくて、俺の頭からは魔獣のことなんてすっぽ抜けてしまう。そもそもオリビアが前に言っていた通り、こんな街中にでっかい魔獣なんて出てこないだろう。たとえ出てきたとしても、今はエヴァンズ家の騎士たちがいる。俺がペットにする前に、彼らによって討伐されてしまう。
肩にかけたバッグの中には、俺がこっそり貯めていたお小遣いがある。主にお父様から貰ったものだ。貴族家の次男だから自分で買い物することなんて滅多にないが、お父様はなにかとお小遣いをくれる。多分、俺に硬貨を渡すと大袈裟なくらい喜ぶから。それを見るのが楽しくて渡してくるのだろう。
使い道はあまりないが、硬貨を集めるのは楽しい。一種のコレクションだ。普段は床でお昼寝するユナの周りに硬貨をひたすら並べて遊んだりしている。兄上やオリビアに見つかると「また変な遊びをして」と嫌な顔をされるのだ。
それが、本日はきちんと使えるチャンスである。ずっと自分で買い物してみたかった。オリビアはたまに街へ買い物に行っているが、俺のことは連れて行ってくれない。今の俺は、正真正銘、自由であった。
「猫。なにか買うか?」
『ボクはいいよ』
ノリの悪い猫を引き連れて、通りをゆっくり歩く。全部が物珍しくて、忙しなく視線を動かす俺の足元に、ぴたりと猫が寄り添ってくる。
古着を売っている店に果物屋、日用品はもちろん、ほとんどの物はこの通りで揃ってしまうだろうというくらいに店が立ち並んでいる。向こうのほうには飲み物を売っている店もある。
目移りする俺は、ふらふらと先へ進む。
途中で騎士とすれ違うたびに、帽子を深く被り直して顔を逸らす。いつもと違って平民っぽい服装だから、顔を見られさえしなければ大丈夫だろう。妙に察しの良いオリビアもいないし。
「あれ食べよう! 猫もいるか?」
『ボクはいいよー』
遠慮する猫に構わず、俺はひとつの店に目をつけた。なんか焼き菓子っぽいものを売っている店である。うちの屋敷では出てこないお菓子だ。ファストフード的なものだろう。
「こんちは! それひとつください!」
「はーい! ひとつね」
駆け寄って注文すれば、すぐに用意してくれる。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
受け取った焼き立てお菓子は、なんかマドレーヌみたいな感じである。用意していた硬貨を渡せば、初めての買い物完了である。
「買えたぞ、猫」
ドヤ顔でユナに報告すれば『あー、はいはい。よかったね』と、なんともやる気のない返事がある。
まだ温かい焼き菓子をもぐもぐ頬張って、適当に周囲を見渡す。さすが大きな街というだけあって人が多い。でっかい魔獣は見当たらない。
「仕方がない。ちっちゃい魔獣でもいいや。なんか捕まえよう」
『そんな適当な』
時には臨機応変も大事である。焼き菓子を少しちぎって、猫の口元へと差し出してやる。ぺろっと食べてしまうユナは、呑気に毛繕いをしている。
『ちょっと散歩して、飽きたら帰ろう。オリビアが心配しているよ』
「ダメ! 魔獣捕まえてから帰る」
『えぇー? 嫌だよ。こんな街中にいるわけないって』
そんなの探してみないとわからないだろ。
俺は新しいペットを見つけて、オリビアを見返したいのだ。ふんっと気合いを入れる俺の足元で、ユナはやる気なさそうにくわぁっと欠伸をした。