兄上はあてにならないので、直接騎士団に乗り込もうと思う。
ポメちゃんをどうしても外に出したい俺は、足早に騎士棟へと向かう。今日はケイリーもきちんとついてくる。
『諦めなよ。いいじゃん、部屋に置いておけば』
面倒くさいと吐き捨てるユナを無視して、騎士棟へと駆け込む。現在は訓練の真っ最中らしく、訓練場からは騎士たちの野太い声が聞こえてくる。あの中に、オリビアもまじっているはずである。
「猫、静かにしろよ」
オリビアに見つかると面倒なことになる。
くれぐれも彼女に見つかるなよとユナに言い聞かせれば、『はいはい。わかってますよ』となんともやる気のない声が返ってきた。本当にわかっているのだろうか。疑いの目を向けておく。
ケイリーは、俺のあとを黙ってついてくるだけで余計な口出しはしない。だから放っておいても大丈夫だと思う。
そうして騎士棟の周辺をうろうろする俺は、騎士団長を探していた。騎士団を動かすには、団長の許可が不可欠である。兄上は、団長の迫力にビビってろくに交渉してくれないので、俺が頑張るしかない。こっそりと拳を握りしめて、気合いを入れる。
団長は、あっさりと発見できた。
訓練場の方角から、なにやら大股で歩いてくる団長を急いで呼び止める
「団長ぉ!」
大きく手を振れば、こちらに気がついたバージル団長が怪訝な顔をする。
「どうしましたか、テオ様」
低く落ち着いた声に、ビビっている暇はなかった。ぐっと拳を握りしめて団長に立ち向かう。
「ポメちゃんを庭に出したい!」
「は? え、はい。どうぞご自由に」
意味がわからないと言わんばかりに眉を寄せる団長は、どうやら俺が魔獣を庭に出す許可をもらいに来たと勘違いしている。
「そうじゃなくて。ポメちゃんが俺の部屋から動かない。どうにかして外に引っ張り出してほしい」
「あぁ」
納得したように頷く団長は、どうやらポメちゃんのやる気のなさを知っているらしい。顎に手をやって、考え込んでしまう。
「力尽くで引っ張り出すのは、あまり好ましくないのでは? あの大きさですから。騎士たちも苦労するでしょうし」
「じゃあどうすればいい?」
「どうって。主従契約を結んでいるのですから、普通に命令すればよろしいのでは?」
予想外の答えに、ぱちぱちと目を瞬く。
命令?
「外行こうってお願いしてるけど、動いてくれない」
「お願いではなく命令しないと」
俺の横に屈んだバージル団長は、一緒についてきていたユナを片手で引き寄せる。そうして首の辺りを示してみせる団長は、命令の仕方について解説してくれた。
「主従契約をした時に、魔力を込めたはずです。首輪のような感じで」
「あー、うんうん」
確かに、ポメちゃんと契約した時にも光の首輪みたいなものがポメちゃんの首にはまっていた。その後見えなくなってしまったけど。
「そこに再び魔力を込めれば、魔獣を意のままに操ることが可能ですよ」
「なんか怖いね」
ちょっと洗脳っぽいな。臆する俺に、団長は「ですが方法は覚えておいてください」と言い募る。
「緊急時には使い魔をうまく操ることが求められます。普段は使わないにしても、方法はきちんと忘れないように。でなければ予想外の被害が生じたりしますので」
「はーい」
要するに、あまり考えられないが、魔獣が暴走なんかした時にはこういう方法も必要になるらしい。ポメちゃんは人間の言葉がわかるから普段は必要ないが、人間との意思疎通が不可能な魔獣なんかを使い魔にする時には、いま団長が言ったような手段で魔獣を管理する必要があるという。
「テオ様は、どうやら魔法を扱うのがお上手なようですので。きちんと魔法の勉強をした方がよろしいかもしれませんね」
「うん」
契約魔法は、自分で本を見て覚えた。簡単な魔法の使い方であれば、それを解説した書物なんかが出回っている。俺は兄上の部屋で見つけたものをこっそり盗み見て覚えたのだ。兄上は、趣味で魔法の勉強をしているから。
しかし俺は、そうやって本から得た断片的な知識をもとに魔法を使っているので、団長の言うとおり契約魔法の基礎的な使い方も理解していない。
団長は、俺の魔力が人よりも多いと考えているようだ。多分そういうわけではないと思うのだが、まぁ、人よりも契約魔法の精度が高いことはポメちゃんと契約できたことで明らかになった。
「俺、魔法の勉強したい」
わくわくと主張すれば、団長は大きく頷く。魔法の正しい使い方を知らずにいると、いつか絶対に事故が起こる。フレッド兄上に進言してくれるという団長は、とても頼りになる。弱気な兄上とは大違いだ。
ポメちゃんをどうしても外に出したい俺は、足早に騎士棟へと向かう。今日はケイリーもきちんとついてくる。
『諦めなよ。いいじゃん、部屋に置いておけば』
面倒くさいと吐き捨てるユナを無視して、騎士棟へと駆け込む。現在は訓練の真っ最中らしく、訓練場からは騎士たちの野太い声が聞こえてくる。あの中に、オリビアもまじっているはずである。
「猫、静かにしろよ」
オリビアに見つかると面倒なことになる。
くれぐれも彼女に見つかるなよとユナに言い聞かせれば、『はいはい。わかってますよ』となんともやる気のない声が返ってきた。本当にわかっているのだろうか。疑いの目を向けておく。
ケイリーは、俺のあとを黙ってついてくるだけで余計な口出しはしない。だから放っておいても大丈夫だと思う。
そうして騎士棟の周辺をうろうろする俺は、騎士団長を探していた。騎士団を動かすには、団長の許可が不可欠である。兄上は、団長の迫力にビビってろくに交渉してくれないので、俺が頑張るしかない。こっそりと拳を握りしめて、気合いを入れる。
団長は、あっさりと発見できた。
訓練場の方角から、なにやら大股で歩いてくる団長を急いで呼び止める
「団長ぉ!」
大きく手を振れば、こちらに気がついたバージル団長が怪訝な顔をする。
「どうしましたか、テオ様」
低く落ち着いた声に、ビビっている暇はなかった。ぐっと拳を握りしめて団長に立ち向かう。
「ポメちゃんを庭に出したい!」
「は? え、はい。どうぞご自由に」
意味がわからないと言わんばかりに眉を寄せる団長は、どうやら俺が魔獣を庭に出す許可をもらいに来たと勘違いしている。
「そうじゃなくて。ポメちゃんが俺の部屋から動かない。どうにかして外に引っ張り出してほしい」
「あぁ」
納得したように頷く団長は、どうやらポメちゃんのやる気のなさを知っているらしい。顎に手をやって、考え込んでしまう。
「力尽くで引っ張り出すのは、あまり好ましくないのでは? あの大きさですから。騎士たちも苦労するでしょうし」
「じゃあどうすればいい?」
「どうって。主従契約を結んでいるのですから、普通に命令すればよろしいのでは?」
予想外の答えに、ぱちぱちと目を瞬く。
命令?
「外行こうってお願いしてるけど、動いてくれない」
「お願いではなく命令しないと」
俺の横に屈んだバージル団長は、一緒についてきていたユナを片手で引き寄せる。そうして首の辺りを示してみせる団長は、命令の仕方について解説してくれた。
「主従契約をした時に、魔力を込めたはずです。首輪のような感じで」
「あー、うんうん」
確かに、ポメちゃんと契約した時にも光の首輪みたいなものがポメちゃんの首にはまっていた。その後見えなくなってしまったけど。
「そこに再び魔力を込めれば、魔獣を意のままに操ることが可能ですよ」
「なんか怖いね」
ちょっと洗脳っぽいな。臆する俺に、団長は「ですが方法は覚えておいてください」と言い募る。
「緊急時には使い魔をうまく操ることが求められます。普段は使わないにしても、方法はきちんと忘れないように。でなければ予想外の被害が生じたりしますので」
「はーい」
要するに、あまり考えられないが、魔獣が暴走なんかした時にはこういう方法も必要になるらしい。ポメちゃんは人間の言葉がわかるから普段は必要ないが、人間との意思疎通が不可能な魔獣なんかを使い魔にする時には、いま団長が言ったような手段で魔獣を管理する必要があるという。
「テオ様は、どうやら魔法を扱うのがお上手なようですので。きちんと魔法の勉強をした方がよろしいかもしれませんね」
「うん」
契約魔法は、自分で本を見て覚えた。簡単な魔法の使い方であれば、それを解説した書物なんかが出回っている。俺は兄上の部屋で見つけたものをこっそり盗み見て覚えたのだ。兄上は、趣味で魔法の勉強をしているから。
しかし俺は、そうやって本から得た断片的な知識をもとに魔法を使っているので、団長の言うとおり契約魔法の基礎的な使い方も理解していない。
団長は、俺の魔力が人よりも多いと考えているようだ。多分そういうわけではないと思うのだが、まぁ、人よりも契約魔法の精度が高いことはポメちゃんと契約できたことで明らかになった。
「俺、魔法の勉強したい」
わくわくと主張すれば、団長は大きく頷く。魔法の正しい使い方を知らずにいると、いつか絶対に事故が起こる。フレッド兄上に進言してくれるという団長は、とても頼りになる。弱気な兄上とは大違いだ。