ポメちゃんは、すごくやる気のない魔獣だった。

「ポメちゃん! 庭で遊ぼう」
『外に行くのはちょっと。部屋で遊ぼう』
「じゃあ屋敷の中を探検しよう!」
『テオくん、この屋敷に住んでるんでしょ? 今更探検するところなんてないでしょ』

 こんな感じで、俺の部屋に寝そべったまま動く様子がない。思っていたのと違う。俺はでっかくて強いペットを従えて、いろんなところを探検したかったのに。肝心の魔獣が動いてくれない。なんて嫌なライオンだ。

「動け!」

 勢いつけてポメちゃんの頭を引っ叩いてみるが、『いてっ』という間の抜けた声が返ってくるだけ。立ち上がりもしない魔獣を睨みつけてやる。

 こうなったら勝手に遊ぶしかない。

 ポメちゃんの上によじ登って、またがってみる。部屋の隅に突っ立って、俺のことを観察しているオリビアは、あまりのポメちゃんのやる気のなさに、早々に警戒を解いていた。

 くわぁっと大きく欠伸するポメちゃんに乗ったまま、ユナを呼びつける。初めはポメちゃんの大きさにビビっていたユナも、ポメちゃんがあまりにも動かないものだから余裕を取り戻しつつあった。

 ひらりとポメちゃんの上にあがってきたユナ。

 床に伏せるポメちゃんは、目を閉じてお休みモードに入ってしまう。

「ポメちゃん! 歩いて!」

 ライオンに乗ってお散歩してみたい。立って! 歩いて! とペシペシ叩くが、ポメちゃんはむにゃむにゃ寝始めてしまう。

「もう! オリビア! どうにかして!」
「そんなこと言われましても」

 困ったように小首を傾げるオリビアは、「危ないですよ」と、俺をどうにかしようとしてくる。

 どうやらポメちゃん。街に出没したはいいが、かなり無抵抗だったらしい。討伐に出かけていた騎士たちから聞かされたのだが、騎士に剣を向けられても怒ることなく寝転んでいたという。そこで、騎士のひとりが魔法を使って眠らせ、簡単に捕獲できたのだとか。討伐に伴う被害者はゼロ。なんて緩い魔獣なんだ。

 ポメちゃんが最初にうちに運び込まれた時、なんだか騎士たちが油断していたが、それにはポメちゃんのやる気のなさが関係していたらしい。

「ポメちゃん! 起きてぇ!」

 頭の毛を掴んで引っ張るが、ポメちゃんはうんともすんとも言わない。そのうち寝息が聞こえてくる。

「俺、もっと強い魔獣がほしい」

 オリビアに、うるうると精一杯の涙目を向ければ、彼女は緩く首を左右に振る。

「テオ様には、それくらい危険のない魔獣がピッタリかと」
「ポメちゃんはやる気なさすぎて嫌」
「いいじゃないですか。安全で」

 にこりと微笑むオリビアは、ポメちゃんのことを俺のペットにちょうど良いと考えているらしかった。

 彼女は、常に俺の安全第一で行動している。それはありがたいのだが、今回ばかりはちょっと不満。もっと強くてかっこいい魔獣を従えたい。こんなやる気なしのへなへなポメラニアンではなくて。

「オリビア。一緒にでっかい魔獣探しに行く?」
「行きません」
「じゃあ、小さくてもいいから強い魔獣ほしい」
「ダメです」
「ケチ」

 グッと、オリビアの眉間に皺がよった。

 仕方がない。ポメちゃんのことは、でっかいポメラニアンとして扱おう。ポメちゃんにかっこよさを求めても無駄だとわかった。ふわふわペット枠としてであれば、俺の部屋に置いてやらないこともない。

 夜、ふわふわの上で寝る自分を想像してみる。
 すごくいいかもしれない。

 起きる気配のないポメの背中に、顔を埋める。ふわふわの毛が少しくすぐったいが、心地よい。

「わかった。じゃあ今日からポメちゃんは俺の枕な」
『もはやペットでもないんだ。可哀想』

 なぜかポメちゃんを哀れむユナも、ふわふわの上で気持ちよさそうに寝転んでいる。

「オリビア。ポメちゃんの首輪が欲しい」

 リードを引っ張って、無理やり外に引っ張り出せるかもしれない。「首輪ですか」と考えるように顎に手を持っていくオリビアは、やがて「わかりました」と言ってくれる。

「ケイリーに用意させますね」
「うん」

 オリビアは、面倒なことは基本的にケイリーに押し付けている。仕方がない。彼女は脳筋なので。きっと首輪をどこで入手すべきか分からなかったのだろう。