「副団長。美味しいパンがある店教えてあげる」
「はぁ」
やる気のない相槌を打ってくる副団長を前にして、俺は急いで頭の中で作戦を立てた。副団長をその気にさせて、お出かけの予定を早々に実現したい。
「この前、一緒に街に行ったでしょ」
「一緒にといいますか。テオ様が勝手に荷馬車に乗り込んでいた件ですよね」
どうでもいい訂正を挟んでくる副団長を「まぁまぁ」と宥めながら、根気強く話を進める。
「俺、その時に美味しいパン屋さんを見つけた」
「おや、そうでしたか」
あっさりとした反応を返してくる副団長。もっと食いついてこいよ。副団長の興味を引くために、俺はいかに美味しいパンだったかを語って聞かせてやる。
「すんごく美味しかった。なんか、えっと。美味しかった」
「随分とお気に召したようで」
「そう。だからもう一度食べたい」
なので一緒に街へ行こうとお誘いする前に、副団長はにこりと人の良い笑みを浮かべた。
「でしたら私が買ってきますよ。どこの店ですか」
「それはダメ!」
なんてこと言い出すのだ。
俺は街に行ってクレアに会いたいのだ。代わりに副団長が買ってくるのでは何の意味もない。
慌てて制止すれば、副団長は怪訝な顔をする。なんだか疑いの目を向けられているような気がして、慌ててこほこほと咳払いで誤魔化しておく。
「んっと。パン屋の場所忘れたから、説明できない」
「店の名前は」
「覚えてない。でも街に行ったら思い出すかもしれない。だから一緒に行こう」
じっと見上げれば、副団長は困惑したように頬を掻いている。
「えっと、テオ様」
「なに」
「もしかして、街に行きたいだけでは?」
さすが副団長。鋭いな。
だが、これくらいで諦める俺ではない。いいじゃん、行きたいと騒いでやれば、副団長が遠い目をしてしまう。
「私ではなく、フレッド様にお願いする方が確実かと」
「兄上は良いって言った」
「本当ですか?」
なぜか疑ってかかる失礼な副団長は、「でしたらフレッド様に一度確認してみますので」と話を打ち切ってしまう。思っていたのと違う。俺の計画では、美味しいパンが食べたいと思った副団長が「じゃあ今すぐにでも行きましょう」と楽しい提案をしてくるはずだったのに。
この副団長、意外と冷静だな。
『ご主人様。副団長は大人なんだから。ご主人様と一緒に考えたらダメだよ』
「俺も大人」
『七歳児が何言ってんのさ』
俺を子供扱いしてくるユナを睨みつけて、肩を落とす。今すぐにでもお出かけしたいのに、無理そうだ。
目に見えて落ち込む俺に、副団長は困ったように周囲を見渡している。
「オリビア呼んできましょうか?」
「いい」
オリビアとは、あまりここでは会いたくない。庭や屋敷内では普通に遊んでくれるのだが、訓練場近くでオリビアに出会うと、なぜか剣術の練習をさせられてしまう。俺は、剣術の練習は嫌いだ。オリビアは結構容赦がないし。
彼女に見つかる前に立ち去ろう。
副団長に手を振って、背中を向ける。ユナが後ろをついてくることを確認しながら屋敷方面に足を動かす。
「なんでお出かけするのにこんな苦労しなくちゃいけないんだ」
思わず愚痴れば、ユナが『ご主人様が毎度余計なことばっかりするからでしょ』と素っ気なく答えをよこしてくる。
「俺はすごくいい子」
『どこがだよ。悪さばっかりしているくせに』
自室に戻るが、誰もいなかった。ルルの姿も見えないし、俺と遊んでくれるのはユナしかいないのか。せめてケイリーが遊んでくれれば満足なのに、彼は俺の身の回りの世話をするだけで遊び相手にはなってくれない。
ペタンと床に座り込んで、ユナを撫でる。
どこからかルルが俺を監視している以上、こっそりお出かけというのも無理だろう。
せっかく異世界に居るのに、異世界っぽいことがあんまりできない。冒険とか興味あるのだが、絶対に兄上とオリビアが許してくれないだろう。
こんな屋敷内に引きこもっていても、楽しくない。せめて魔法が使えたらと思うのだが、それも難しくてあんまり使えない。
「もっと大きいペットが欲しい」
『また始まったよ』
そもそも街に行ったのは、でっかい魔獣を捕まえるためだった。捕まえるどころか、目撃さえできていない。それこそ人があまり立ち入らない森などに行かないと、でっかい魔獣はお目にかかれない気がする。
「猫。おまえ、おっきくなれないのか!」
『無理だよ』
進化したりしないのか? どうなんだ? と問い詰めるが、ユナは『無理に決まってるでしょ』と素っ気なかった。
「はぁ」
やる気のない相槌を打ってくる副団長を前にして、俺は急いで頭の中で作戦を立てた。副団長をその気にさせて、お出かけの予定を早々に実現したい。
「この前、一緒に街に行ったでしょ」
「一緒にといいますか。テオ様が勝手に荷馬車に乗り込んでいた件ですよね」
どうでもいい訂正を挟んでくる副団長を「まぁまぁ」と宥めながら、根気強く話を進める。
「俺、その時に美味しいパン屋さんを見つけた」
「おや、そうでしたか」
あっさりとした反応を返してくる副団長。もっと食いついてこいよ。副団長の興味を引くために、俺はいかに美味しいパンだったかを語って聞かせてやる。
「すんごく美味しかった。なんか、えっと。美味しかった」
「随分とお気に召したようで」
「そう。だからもう一度食べたい」
なので一緒に街へ行こうとお誘いする前に、副団長はにこりと人の良い笑みを浮かべた。
「でしたら私が買ってきますよ。どこの店ですか」
「それはダメ!」
なんてこと言い出すのだ。
俺は街に行ってクレアに会いたいのだ。代わりに副団長が買ってくるのでは何の意味もない。
慌てて制止すれば、副団長は怪訝な顔をする。なんだか疑いの目を向けられているような気がして、慌ててこほこほと咳払いで誤魔化しておく。
「んっと。パン屋の場所忘れたから、説明できない」
「店の名前は」
「覚えてない。でも街に行ったら思い出すかもしれない。だから一緒に行こう」
じっと見上げれば、副団長は困惑したように頬を掻いている。
「えっと、テオ様」
「なに」
「もしかして、街に行きたいだけでは?」
さすが副団長。鋭いな。
だが、これくらいで諦める俺ではない。いいじゃん、行きたいと騒いでやれば、副団長が遠い目をしてしまう。
「私ではなく、フレッド様にお願いする方が確実かと」
「兄上は良いって言った」
「本当ですか?」
なぜか疑ってかかる失礼な副団長は、「でしたらフレッド様に一度確認してみますので」と話を打ち切ってしまう。思っていたのと違う。俺の計画では、美味しいパンが食べたいと思った副団長が「じゃあ今すぐにでも行きましょう」と楽しい提案をしてくるはずだったのに。
この副団長、意外と冷静だな。
『ご主人様。副団長は大人なんだから。ご主人様と一緒に考えたらダメだよ』
「俺も大人」
『七歳児が何言ってんのさ』
俺を子供扱いしてくるユナを睨みつけて、肩を落とす。今すぐにでもお出かけしたいのに、無理そうだ。
目に見えて落ち込む俺に、副団長は困ったように周囲を見渡している。
「オリビア呼んできましょうか?」
「いい」
オリビアとは、あまりここでは会いたくない。庭や屋敷内では普通に遊んでくれるのだが、訓練場近くでオリビアに出会うと、なぜか剣術の練習をさせられてしまう。俺は、剣術の練習は嫌いだ。オリビアは結構容赦がないし。
彼女に見つかる前に立ち去ろう。
副団長に手を振って、背中を向ける。ユナが後ろをついてくることを確認しながら屋敷方面に足を動かす。
「なんでお出かけするのにこんな苦労しなくちゃいけないんだ」
思わず愚痴れば、ユナが『ご主人様が毎度余計なことばっかりするからでしょ』と素っ気なく答えをよこしてくる。
「俺はすごくいい子」
『どこがだよ。悪さばっかりしているくせに』
自室に戻るが、誰もいなかった。ルルの姿も見えないし、俺と遊んでくれるのはユナしかいないのか。せめてケイリーが遊んでくれれば満足なのに、彼は俺の身の回りの世話をするだけで遊び相手にはなってくれない。
ペタンと床に座り込んで、ユナを撫でる。
どこからかルルが俺を監視している以上、こっそりお出かけというのも無理だろう。
せっかく異世界に居るのに、異世界っぽいことがあんまりできない。冒険とか興味あるのだが、絶対に兄上とオリビアが許してくれないだろう。
こんな屋敷内に引きこもっていても、楽しくない。せめて魔法が使えたらと思うのだが、それも難しくてあんまり使えない。
「もっと大きいペットが欲しい」
『また始まったよ』
そもそも街に行ったのは、でっかい魔獣を捕まえるためだった。捕まえるどころか、目撃さえできていない。それこそ人があまり立ち入らない森などに行かないと、でっかい魔獣はお目にかかれない気がする。
「猫。おまえ、おっきくなれないのか!」
『無理だよ』
進化したりしないのか? どうなんだ? と問い詰めるが、ユナは『無理に決まってるでしょ』と素っ気なかった。